近況遠況(2023年12月前半) その1
XにてSF方面から「日録週報を細かにつけておくことが大事」「SNSは流れてしまうからブログに書くのが大事」という風な話が流れてきていて、ンマ~そりゃそうだけどもと、日記三日坊主マンとしては耳が痛い。やるなら年内に書き始めておきたい、週報くらいがよかろうと考えていたけれども、気がつけば早くも十二月第三週。細かい内容は既に飛びがちだけど、Xを見直しながら書けるところから書いてみる。
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例になく書籍の出入りが激しい二週間だった。
・【献本】『本格ミステリ・エターナル』(行舟文化)
版元から献本。国内の長編を系統的に読もうという気力がなく、パラパラめくりながら作者の名前とタイトルを目当たりして「あ、この人/本見たことあるわ」という感想しか出てない人間にはややもったいないようにも。『クロニクル』・『ディケイド』・本書と三冊(『フラッシュバック』から見れば四冊)を並べてみると、五十年史が見えてくるのが面白いのではないでしょうか。SNSにて「翻訳ミステリで10年史をやってほしい」というご意見も見かけたが生半容易ではなかろうな、と思うだけ。
・【献本】レオ・ブルース『怒れる老婦人たち』(ROM叢書)
・【献本】アルバート・ハーディング『レイヴンズ・スカー山の死』(ROM叢書)
二冊とも版元から献本。盛林堂書房通販は既に完売済みなので、献本として紹介する意義は薄いかもしれない。
『怒れる老婦人たち』は訳者の小林晋さんが昔出されていた同人誌「アウント・オーロラ」で既読。『ブレッシントン海岸の死』で解説を書くために旧同人誌版と新原稿を読み比べたときにも思ったが、細部に改訂が施されていて、小林さんの丁寧なお仕事を感じる。内容は普通に面白い(ディーンものでは水準以上)のでおすすめです。
『レイヴンズ・スカー山の死』はかなり大掛かりな仕掛けを巧みな誤導で隠した、出来のいい「一発屋」探偵小説。訳者あとがきでは著名作家の別名義作品ではという話も出ているが、逆に探偵小説非プロパーの作家(詩人?)が一作だけ書いた作品ではないかしら。イギリス人の探偵小説への愛深きこと、そして裾野の広さには驚かされる。
それにしても、『禁じられた館』・『ガラスの橋』で高評価を得つつ、私家本でも自分の好きな本をドシドシ紹介する(SNSでも興味深い本の話をよくしている)小林さんのパワフルさには、必然触発されるものがある。面白いことやりたいなあ。
和書の古本もまあまあ買ったが、その話をしても自分なりの面白さは出せないと思うので洋書の話でも。数字は到着順。
①A Companion to the Mystery Fiction 2: E. X. Ferrars
②Patrick Quentin, Exit Before Midnight: A Collection of Murder Tales
③Cyril Hare, Best Detective Stories of Cyril Hare
④James Ronald, The Dr. Britling Stories
⑤Richard Hull, Keep It Quiet
⑥David Frome, Mr. Pinkerton Grows a Beard
①はエリザベス・フェラーズの文学研究のための資料本。数年前にこのシリーズの「ナイオ・マーシュ」を買ったことがある(某叢書の解説依頼を受けて。原稿はまだ貰ってません(爆))が情報量は圧倒的。文学研究をやるための切り口探しに役立ちそうだ。解説で役に立つかは(そういう風に書くか次第なので)分からないが……詳細は以下の版元サイトを参照のこと。
McFarland Companions to Mystery Fiction - McFarland
②はカーティス・エヴァンズ大兄肝煎りのP・クェンティン作品集第五弾。クリッペン&ランドリュに振られ(そんなことあるんだね)、スターク・ハウスに版元を変えてからは二冊目。中編四作(うち三作は既訳あり)と犯罪実話三作を併録した充実の内容だが、それ以上に巻末の著作リストがまた更新されているのに驚かされる。未訳の激レア中編 "The Gypsy Warned Him" は読み終わったらご報告します。
③は来年(?)商業で(?)刊行希望のシリル・ヘアー短編集の底本として購入。翻訳自体は電子書籍を元に進めているが、最終的にはどこかで初版と突き合わせるのだからということで。編者マイケル・ギルバートの序文(電子書籍に未収録・初見)も友情で泣かせる。なお短編集はこの「ベスト選」に漏れた数編を増補した完全版として出すつもり。まあ、今のところほとんど架空の話なんですがね。初見さん。
④は諸氏絶賛作家が安い値段で手に入るようになったということで。電子書籍でも買えるが、電子書籍がいつまでも買えるわけではないので、置場があれば紙も買っておいた方がいいですよ(実際、某版元は主催者の方が若くして亡くなって、多分もう新しい本は出ません。電子書籍もいつ撤退するか……)。
⑤⑥は仙台の古書肆「古本あらえみし」さんにて購入。わざわざ旅先で、しかもさして珍しくない洋書ペーパーバックを買ったのは、聞くところではこれが真田啓介さんが最近手放された旧蔵書ということだったからです。やったぜ。このうちハルは全然珍しくない(翻訳あるし、80年代の大判だし)が、フロムは40年代のペンギンブックスでちょい珍しい。多分誰も手を付けてないペーパーバック漁り、楽しゅうございました。
ちょっと長くなったので、読んだ本の話はまた次回。