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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

【構想中】パトリック・クェンティン中短編傑作選は出せないのか?

昨日の続き。

現在確認されているもので、パトリック・クェンティン/Q・パトリックには70の中短編がある(のちに長編の原型になった長めの中編は除く。また作品の新発見も続いており、今後さらに増える可能性がある)。作品の出来にある程度ばらつきがあるのは当然だけれど、その平均点は高く、謎ときミステリとしての完成度は群を抜いていて、キャラクター小説としても読ませるものが多い。

『八人の招待客』(原書房・奇想天外の本棚)ではそのうち二編が採録されているけれども、単発の刊行に留まらずそれらを網羅的に紹介することができないかという構想中の企画を並べてみる。

『ティモシー・トラント警部補の事件簿』(The Cases of Lieutenant Timothy Trant)

クェンティンの作品集を「まず一冊」ということで企画するならこれだろう。『レオ・ブルース短編全集』(扶桑社ミステリー)の柳の下の泥鰌を狙う感じで一つ。実際、アメリカの新聞 Evening Star の日曜版 This Week 初出の短い短編(パズル風)がずらりと並ぶ形式はブルース短編集とよく似ている。初期の長めの作品と併せて、読み味のバランスもいい。
中短編のトラント警部補は若くて金持ちで気障で女にモテモテな上に、仕事は上流階級の殺人事件専門というキャラ立ちしまくりの男。後の長編でピーター・ダルースの敵役として出てくる「地味だが怖い男」とはまるで別人だが、解説ではその辺りも補完するとよいだろう。
底本は、Crippen & Landruの作品集を丸ごと翻訳するのがよいと思う(短編全集)。紙幅の上で可能ならば、トラント警部補物の長めの中編 The Lady Had Nine Lives も収録したいところだが、まあこれは諦めるとしよう。いつかこの中編を改稿した長編(Death for Dear Clara)の翻訳が出ると信じて……
※ちなみに21編中12編を米丸=宮澤洋司さんが翻訳されているので、雑誌・アンソロジーに載ったままの7編を新訳、さらに未訳の2編を足して、個人全訳にしていただくのがいいと思います!(勝手な発言)

『ダルース夫妻パズル』(The Puzzles for Duluths and Other Puzzles)

トラント警部補の次に来るのは当然ダルース夫妻だ。内容的には昨日書いた通り、Crippen & Landru の作品集に、おまけとして傾向が似ている The Gypsy Warned Him を併録する。これにより、『俳優パズル』(1938)から『人形パズル』(1944)までの六年間の空白(これは作者二人の「第二次世界大戦従軍期間」に相当する)を埋める「戦時協力」の実態を明らかにすることができるだろう。

※収録予定作のうち、Puzzle for Flowers は『人形パズル』の原型中編のため掲載不要という向きもあるかもしれない。ただ、人によっては長編版より良いという人もいるので、読み比べるに値する資料として一つお許しいただこう。

『金庫と老婆 完全版』(The Ordeal of Mrs. Snow)

ハヤカワ・ミステリから刊行された『金庫と老婆』は、収録作12編のうち3編(「検察側証人」「はるか彼方へ」「鳩の好きな女」)が削除された上に、掲載順もバラバラに入れ替えられた不完全な本である。これらを補い、想定された順序に並べた上で全編を新訳する(「はるか彼方へ」は比較的近年翻訳された作品なので、ママでもよいか?)。

「探偵役の知名度」や「謎ときパズルの形式になっていること」「既に本の形にまとめられていること」といった刊行ハードルを下げる条件を満たすものということで、まずこれらの三冊を刊行する。その上で、ノンシリーズ傑作選(『嫌われ者の女-パトリック・クェンティン傑作選1』『待っていた女-パトリック・クェンティン傑作選2』)を企画するという流れが適切であろう。ということで、後はよろしくお願いします(<各社)。