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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

買った本・読んだ本(12/25-1/6)

正月休みに書き忘れた、のが後ろにずれこんでいるがそのうちに辻褄を合わせようと思う。今年の年末はコミケにも行かず、実家には二度ほど帰ったが特に何もなく、ダラダラとインプットに努めてしまった(アウトプットしていないだけともいう)。

■買った本

・ルーシー・ワースリー『イギリス風殺人事件の愉しみ方』
佐藤春夫『たそがれの人間』
・レオ・ブルース『骨と髪』
・Carol Carnac, The Double Turn
篠田節子『田舎のポルシェ』
藤本和子イリノイ遠景近景』
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デイヴィッド・グーディス『溝の中の月』
笹沢左保『暗い傾斜』
・シュテファン・ツワイクマリー・アントワネット 上下』
・川添愛『言語学バーリ・トゥード Round1』
デイヴィッド・グーディス狼は天使の匂い
デイヴィッド・グーディスピアニストを撃て
・『世界推理短編傑作選2』

ということで二週間分(週の区切りに---を入れたもの)。全部は言及しないがいくつかコメント。

ルーシー・ワースリー『イギリス風殺人事件の愉しみ方』は同作者のアガサ・クリスティー伝を読んだのがきっかけ。NHK出版刊(BBCの番組由来?非マニア向けか?)で、イギリス史の先生が翻訳した(ミステリの専門家ではない)ということで一抹の不安はあったが、意外にしっかりした本が届いた。感想は来週。

Carol Carnac, The Double Turn はオークションで落札したもの。正直落札するつもりはなくて、これくらいのレア本なら値段吊り上げても食いついてくる人がいるだろうと思ったら空振りして落手してしまった。既に一冊、同状態(ジャケット付き図書館落ち)の本を持っているので、困る。英米のマニアに10倍で転売したろうかね? 閑話休題、カーナック名義では屈指と言われる作品なので、近く読んで紹介したいところ。

デイヴィッド・グーディス『溝の中の月』kindle専売。HM書房は早川書房を退職された編集者が個人で経営している電子出版社(周知の事実と思っていたが?)。前回のA・M・バレイジ『ありふれた幽霊』から間が空いたので心配していたが、継続するようで何より。企画としては明らかに『ポケミス名画座』の続き(訳者もプロ)なので、何らかの理由でお蔵入りしていた原稿を出してくれているのかな。ちなみにポケミスのグーディス二冊は、『溝の中の月』が良かったので注文した本が即日届いたもの。

・読んだ本

ルーシー・ワースリー『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリーの女王』
オノレ・ド・バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』
Andrew Wilson, A Different Kind of Evil
デイヴィッド・グーディス『溝の中の月』
大下宇陀児『烙印』
Donald Henderson, Mr. Bowling Buys a Newspaper

ワースリーについては前回書いたので割愛。昨年末に読んだ(嘘、実はまだ読み終わってない)ツヴァイクバルザック』といい、パワフルな伝記を読むのが続いていて、それに引きずられて著作も読みたくなる(ので買ってしまう)の流れが来ている。まあ、クリスティーは既に全作電子版を買ってあるから、もう何も恐くない、んですけどね。

『グランド・ブルテーシュ奇譚』光文社古典新訳文庫から出た短編集。薄くてほどよい本かと思いきや、ツヴァイクの伝記で覚えたバルザックの「癖」の粋を集めた傑作選になっていて、編者の心意気に打たれる。文字通り「金(きん)の匂い」に導かれるままに破滅した男を描いた「ファチーノ・カーネ」がベストだが、バルザックの恋愛観をギュッと詰め込んだ「ことづて」「マダム・フィルミアーニ」もベネ。

買った本でも書いた『溝の中の月』は、珠玉のノワール長編。主人公が暮らすスラムの「中」と「外」を執拗に対比しながら、決して届かない「月」から伸びる光が「溝」に照り映える様を描くラストは美しいの一言。駆け込みで買った、『ポケミス名画座』で出た二長編は学生時に読んで以来だが、今読み返すと色々違うものが見えてくるかも。

『烙印』は、一年前に途中まで読みかけて放置していたが、本を整理したら出てきたのでもう一度はじめから全部読んだ。『偽悪病患者』と併せてベスト・オブ・ベストの名に相応しい作品集。「情鬼」「決闘街」など痺れるようなサスペンスの名品は読めてよかった。逆に乱歩のいう「子供使い」の部分にはいまいち納得できなかったり(乱歩の「ガジェット好み」は個人的には合わない)。

原書二冊は読みかけていたものを消化。Wilsonは80%、いましも謎解きが始まろうというところで数か月読み止していたのだから罪深い。海外のレビューサイトで「クリスティーに限りなく漸近した」と言われている理由が分かりました。これは傑作ですね。Hendersonはマーティン・エドワーズがコリンズ社に復刊させた作家で、レイモンド・チャンドラー「簡単な殺人法」の中で絶賛されたという逸話を持つ。前にざっと読んだ時はそこまで気にならなかったが、今回はちょっとサスペンスが弱すぎか?と感じた。エドワーズが褒めているポイントも分かるのだが、翻訳紹介するには難ありかも。