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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

近況遠況(2023年12月前半) その2

その1に続けて、12月の前半に読んだ本の話。

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12/2:パトリック・レイン『もしも誰かを殺すなら』(論創海外ミステリ)★★★☆☆

殺人事件裁判の陪審員が「被告を死刑にしたこと」を具に同窓会をやるという不謹慎極まるイントロが「被告は無実の罪で死刑に処された」「感謝の印に陪審員の皆さんに、遺産を均等割りで差し上げよう」という最近死んだ真犯人の挑発的遺言によって一気に不穏になる。折しも陪審員たちが集められた山奥のコテージは雪に閉ざされて……
クラシックミステリ界隈きっての目利きであるMK氏が強く推す、アメリア・レイノルズ・ロングの別名義作品。「誰かを殺すならこんな方法で」と各人が挙げたまさにその手段で、次から次へと人が殺されていく。「Why」については弱いと言わざるを得ないが、視点人物を務める名探偵にして犯罪心理学者のレイン(作者と同名)の「盲目」という特徴を生かした展開はサスペンスフルだ。

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12/4:ルース・レンデル『指に傷のある女』(角川文庫)★★★★☆

本作は、法月綸太郎が「ミステリー通になるための100冊(海外編)」で取り上げた作品で「地味な話だと思って甘く見ると、足元をすくわれること確実」とある。ほー、なるほどと読み始めたはいいが……先生! この書き方はミスリードが過ぎませんか!「地味な話」どころか「異常な話」ですよ! 何が異常って、捜査官が異常なのだ。
指紋が一つも残っていない異様な殺人現場にただ一つ残された「人差し指の先に傷のある女の手の跡」。ウェクスフォード主任警部は夫を妻殺しの主犯と目して捜査を始めるものの上層部からストップがかかってしまう。もちろんそれで諦める彼ではない。スコットランドヤード所属の甥や自前の情報屋を駆使して、何とか夫を追いつめようと食い下がるが……読者は近視眼的・我武者羅な視点人物に誤導されることで、意外な(そして探偵小説的には別に意外でもない)トリックにまんまと騙される。これはやられた。

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12/5:エリザベス・フェラーズ『わたしは見たと蠅は言う』(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★☆☆

戦争の足音が迫る一九三九年。画家のケイが暮らす安アパートの一室から拳銃が発見される。捜査の結果、その銃は最近起きた殺人の凶器であること、そして死者はかつてケイの隣人だったナオミであることが判明する。善良で人に殺されることなどないナオミは誰に、なぜ殺されたのか。アパートの住人たちは警察そこのけの勢いで口々に自分の推理を語り始める……
文庫新訳初刊時以来の再読。各人各様の思惑が絡み合って単純な謎が複雑に描き出されていくが、最終的には各人各様の推理をパッチワークするように真相が解き明かされるというのが面白い(バークリーを意識しただろうか)。陰惨な事件を狂躁的に語る作品だが、それと対比して空虚な、空襲後の廃墟の中で戦前を思い出すという構成もいい。ただ、根幹に謎ときミステリとしては反則気味な部分があり、素直に褒めるのにはやや躊躇いを感じるところだ。
フェラーズはRe-ClaM次号で特集として取り上げる予定で、ノンシリーズの初期作を中心に今後読んでいく予定。

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読書会用に再読したフランシス・アイルズ『殺意』『レディに捧げる殺人物語』については、稿を改めてきちんと形にしたいところ。

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最後になるが……解説を書いたブリストウ&マニング『姿なき招待主(ホスト)』(扶桑社ミステリー)が12月頭に刊行されました。マニアックに寄り過ぎて不適当(あと、版元を無用の面倒に巻き込みたくないし)と判断して解説ではオミットした「ネタバレあり」の論考も、そのうちこちらのブログに書く予定です。併せてよろしくです。