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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

「悪魔博士」の恐怖~パルプ雑誌のヴィランたち

パルプ雑誌に大量の作品を書きまくった作家Paul Ernstが、1930年代にウィアード・テールズ誌に連載した「悪魔博士 Doctor Satan」シリーズの中編全八作を一通り読んだ。第一作の「悪魔博士」のみ翻訳があり、残りは未訳である。第七作までは激安電書に収録されているので簡単に読める。残る第八作はInternet Archiveに掲載誌が落ちているので、興味の向きは検索してみてください。

「悪魔博士」とは、赤いマントに赤い長手袋、悪魔のそれを模した二本の角を生やした赤いマスクを身に着けた変態、もといスーパー・ヴィランである。催眠術や黒魔術、果ては超科学兵器を操り、猿人のような見た目の男や、足がなく手で歩く巨漢を部下に悪事の限りを尽くす。
「悪魔博士」は毎度のように大金持ちを脅して金を奪い取るが、別に金に困っているわけではない。彼は、合衆国のエリート層である富豪たちに「恐怖」を味あわせ、彼らに虎の子の「金」を吐き出させることこそが「支配」だと考えているのだ。そしていずれは世界を制覇せんと目論んでいるらしい。地道ながら気宇壮大な悪党だと言えよう。
そのライヴァルのアスコット・キーンもまた、大富豪の息子にして眉目秀麗頭脳明晰なスポーツマンで、しかも金と暇に飽かせて世界中の魔術を収集し、それらを身に着けているという超人。秘書のベアトリス・デイルはもちろん類稀な美女で、しかも「悪魔博士」の恐怖に服従せず、キーンとともに立ち向かう気概がある。毎回巻き起こる二人の対決こそこのシリーズの読みどころと言えるだろう。

第一話からして「悪魔博士」が被害者の頭に殺人植物を植え付け殺すトンデモエピソードだが、以降も、大金持ちを一度殺し、しかる後「復活」させて銀行口座から金を引き出させたり(強硬な富豪が自ら金を払ったことが他の富豪たちを不気味がらせる)、奇妙な透明光線によって美しいハリウッド女優の皮膚を消し去るという、残酷でグロテスクな「人質」を取って身代金を要求したり、自動車のエンジンに一瞬で被害者を焼き尽くす爆破装置を仕込んで連続殺人を行ったりと、奇想天外なギミックが次々登場して読者を飽きさせない。
シリーズ後半ともなると、タネ切れになったかややパワーダウンを感じるものの、先にも触れた「透明光線」を扱う第三作"Hollywood Horror"や恐怖によって金を奪う「悪魔博士」の本質が剥き出しになる第五作"Horror Insured"(巨大な建物からの人間消失を含む)などの中期作は読むに堪える作品であると思う。

余程のことがなければ今後紹介される機会はないだろうが、ちょっと面白いシリーズのお話でした。