「現代ミステリー・スタンダードNext」を検討する①
1997年に扶桑社から発売された『現代ミステリー・スタンダード』は、1970年代後半から約20年間の間に翻訳刊行された同時代の主に英米のミステリーについて、一作家一作品、計百項目を紹介したブックガイドである。一項目を見開き二ページで構成する贅沢な版面、新進気鋭の評者・翻訳者が多数ラインナップされた、フレッシュかつ力量十分のライター陣、一流作家の一流作品を押さえた選書と、正直この時代についてこれ以上のものは作りようがない傑作ブックガイドである。翻訳ミステリファンは必携だろう。
私はもうかれこれ10年ほど、この『現代ミステリー・スタンダード』の続編が作られることを待ち望んできた。対象は上記で扱われた作品に連なる、1990年代後半からの約20年間、特に2000年以降に刊行された現代ミステリー。ジャンルの広がり、レーベルの増加、その中で膨大な数に膨れ上がった出版点数、そこに指針を示すブックガイドの決定版をどこかの出版社が手掛けないものか、と。しかし、その気配は一切なく、平成は令和になり、2010年代は2020年代になってしまった。やはり難しいのだろうか。
そういうときに「うーむ、誰もやらないなら、俺がやるか」とうっかり勘違いしてしまうのが私という人間だ。そこで、以下の条件で百作家の百作品を選びリストを作った。すなわち、こんなリストである。
・「原書が1996年~2015年の期間で刊行された」
・「翻訳物の、広義のミステリーで」
・「文庫本/または文庫化された作品を中心に」
・「このミス上位作品など話題作を押さえつつ」
・「かつ、独断と偏見に基づく、独自性溢れる」
(=「必ずしも作家の/時代のベスト作品ではないが、私は偏愛している」)
なお、当初は1997年版に収録されている作家はすべて外していた。しかし、彼らの中には2000年以降大きく作風が変わった、あるいは新たな代表作といえる作品を書いた者もいる(例えばトマス・H・クックは『鹿の死んだ夜』(1980)が紹介されているが、読書シーンに彼の名を刻みつけた「記憶」シリーズの紹介は、原書96年、翻訳98年の『緋色の記憶』を嚆矢とする)。そのため、主に私の好みに従い、これらの作家についても数名改めて加えたことをご了承いただきたい。
ところで、特に現代の翻訳ミステリーを多く読んでいる識者の中には、「俺の好きなあの作家/作品が入っていないではないか」というご不満を覚える方も現れよう。その問題については、「私が知らない、読んでいない、読んでいても好みでない」といった点に理由が帰せられる。どうか平にご容赦願いたい。そして出来れば、あなたの「100冊」、あるいは「10冊」なり「20冊」なりを、教えていただければ幸いである。
01. マイケル・スレイド『暗黒大陸の悪霊』(Evil Eye、1996)
02. ジェフリー・ディーヴァー『コフィン・ダンサー』(The Coffin Dancer、1998)
03. ジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗の農場』(The Locust Farm、1998)
04. トマス・H・クック『夜の記憶』(Instruments of Night、1998)
05. ダン・ゴードン『死んだふり』(Just Play Dead、1998)
06. アーナルデュル・インドリダソン『声』(Röddin、1999)
07. トム・フランクリン『密猟者たち』(Porchers、1999)
08. カーリン・アルヴテーゲン『喪失』(Saknad、2000)
09. キャロル・オコンネル『魔術師の夜』(Shell Game、2000)
10. ジョー・ネスボ『コマドリの賭け』(Rødstrupe、2000)
11. ヘニング・マンケル『タンゴステップ』(Danslärarens återkomst、2000)
12. ミネット・ウォルターズ『蛇の形』(The Shape of Snakes、2000)
13. ヴィクター・ギシュラー『拳銃猿』(Gun Monkeys、2001)
14. カルロス・ルイス・サフォン『風の影』(La sombra del viento、2001)
15. ジェイムズ・エルロイ『アメリカン・デス・トリップ』(The Cold Six Thousand、2001)
16. ジャスパー・フォード『文学刑事サーズデイ・ネクスト<1>』(The Eyre Affair、2001)
17. ローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』(Anything You Say Can and Will Be Used Against You、2001)
18. S・J・ローザン『冬そして夜』(Winter and Night、2002)
19. クレイグ・クレヴェンジャー『曲芸師のハンドブック』(The Contortionist's Handbook、2002)
20. ベン・レーダー『馬鹿★テキサス』(Buck Fever、2002)
21. ロノ・ウェイウェイオール『鎮魂歌は歌わない』(Wiley's Lament、2003)
22. アントニイ・マン『フランクを始末するには』(Milo and I、2003)
23. ジェイムズ・カルロス・ブレイク『荒ぶる血』(Under the Skin、2003)
24. ウィリアム・K・クルーガー『二度死んだ少女』(Blood Hollow、2004)
25. デオン・マイヤー『デビルズ・ピーク』(Infanta、2004)
26. リー・チャイルド『前夜』(The Enemy、2004)
27. ポール・ルバイン『マイアミ弁護士 ソロモン&ロード』(Solomon vs. Lord、2005)
28. ジェフリー・フォード『ガラスのなかの少女』(The Girl in the Glass、2005)
29. クレイグ・ディヴィッドソン『君と歩く世界』(Rust and Bone、2005)
30. コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』(No Country for Old Men、2005)
31. ジム・ケリー『逆さの骨』(The Moon Tunnel、2005)
32. ジャック・カーリイ『デス・コレクターズ』(The Death Collectors、2005)
33. ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(20th Century Ghosts、2005)
34. スコット・ウォルヴン『北東の大地、逃亡の西』(Controlled Burn、2005)
35. スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴンタトゥーの女』(Män som hatar kvinnor、2005)
36. ドン・ウィンズロウ『犬の力』(The Power of the Dog、2005)
37. ドウェイン・スウィアジンスキー『メアリー‐ケイト』(The Blonde、2006)
38. アン・クリーヴス『大鴉の啼く冬』(Raven Black、2006)
39. ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』(The Janissary Tree、2006)
40. ジョー・ウォルトン『英雄たちの朝 ファージング1』(Farthing、2006)
41. マイケル・コックス『夜の真義を』(The Meaning of Night、2006)
42. ルイス・ベイヤード『陸軍士官学校の死』(The Pale Blue Eye、2006)
43. ルースルンド&ヘルストレム『死刑囚』(Edward Finnigans upprättelse、2006)
44. トロイ・クック『最高の銀行強盗のための47ヶ条』(47 Rules of Highly Effective Bank Robbers、2007)
45. マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』(The Yiddish Policemen's Union、2007)
46. マット・ラフ『バッド・モンキーズ』(Bad Monkeys、2007)
47. ユッシ・エーズラ・オールセン『特捜部Q―檻の中の女―』(Kvinden i buret、2007)
48. ロバート・クレイス『天使の護衛』(The Watchman、2007)
49. マーティン・ウォーカー『緋色の十字章』(Death in the Dordogne、2008)
50. エリック・ガルシア『レポメン』(The Repossession Mambo、2008)
51. デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』(City of Thieves、2008)
52. デニス・ルヘイン『運命の日』(The Given Day、2008)
53. トム・ロブ・スミス『チャイルド44』(Child 44、2008
54. フォルカー・クッチャー『濡れた魚』(Der nasse Fisch、2008)
55. ヨハン・テオリン『冬の灯台が語るとき』(Nattfåk、2008)
56. ルイーズ・ペニー『スリー・パインズ村の無慈悲な春』(The Cruelest Month、2008)
57. ローラ・リップマン『心から愛するただひとりの人』(Hardly Knew Her、2008)
58. サイモン・ベケット『骨と翅』(Whispers of the Dead、2009)
59. アッティカ・ロック『黒き水のうねり』(Black Water Rising、2009)
60. オレン・スタインハウアー『ツーリスト』(The Tourist、2009)
61. ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』(The Last Child、2009)
62. チェルシー・ケイン『ビューティ・キラー3 悪心』(Evil at Heart、2009)
63. デイヴィッド・ピース『占領都市』(Occupied City、2009)
64. フィリップ・カー『死者は語らずとも』(If The Dead Rise Not、2009)
65. フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(Verbrechen、2009)
66. マシュー・ディックス『泥棒は几帳面であるべし』(Something Missing、2009)
67. ラグナル・ヨナソン『雪盲』(Snjóblinda、2009)
68. イアン・ランキン『偽りの果実』(The Impossible Dead、2010)
69. ニック・ピゾラット『逃亡のガルヴェストン』(Galveston、2010)
70. ルー・バーニー『ガットショット・ストレート』(Gutshot Straight、2010)
71. スティーヴ・ハミルトン『解錠師』(The Lock Artist、2010)
72. トム・ラックマン『最後の紙面』(The Imperfectionists、2010)
73. フランク・ティリエ『シンドロームE』(Le syndrome E、2010)
74. ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』(Blacklands、2010)
75. ミック・ヘロン『窓際のスパイ』(Slow Horses、2010)
76. ロジャー・スミス『はいつくばって慈悲を乞え』(Wake Up Dead、2010)
77. クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(The Islanders、2011)
78. ジェイムズ・トンプソン『凍氷』(Lucifer's Tears、2011)
79. ピエール・ルメートル『その女アレックス』(Alex、2011)
80. マイクル・コナリー『転落の街』(The Drop、2011)
81. マイクル・コリータ『深い森の灯台』(The Ridge、2011)
82. ミシェル・ビュッシ『黒い睡蓮』(Nymphéas noirs、2011)
83. ギリアン・フリン『ゴーン・ガール』(Gone Girl、2012)
84. ケイト・モートン『秘密』(The Secret Keeper、2012)
85. デレク・B・ミラー『白夜の爺スナイパー』(Norwegian by Night、2012)
86. トニ・ヒル『よき自殺』(Los buenos suicidas、2012)
87. ボストン・テラン『音もなく少女は』(Woman、2012)
88. ヨート&ローセンフェルト『犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯』(Lärjungen、2012)
89. リサ・バランタイン『その罪のゆくえ』(Guilty One、2012)
90. ポール・クリーヴ『殺人鬼ジョー』(Joe Victim、2013)
91. E・R・ブラウン『マリワナ・ピープル』(Almost Criminal、2013)
92. ハラルト・ギルバース『ゲルマニア』(Germania、2013)
93. ロジャー・ホッブズ『ゴーストマン 時限紙幣』(Ghostman、2013)
94. アンソニー・ホロヴィッツ『モリアーティ』(Moriarty、2014)
95. サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち』(The Paying Guests、2014)
96. 陳浩基『13・67』(13・67、2014)
97. レイ・セレスティン『アックスマンのジャズ』(The Axeman's Jazz、2014)
98. ローリー・ロイ『彼女が家に帰るまで』(Until She Comes Home、2014)
99. エーネ・リール『樹脂』(Harpiks、2015)
100.ポーラ・ホーキンズ『ガール・オン・ザ・トレイン』(The Girl on the Train、2015)
あなたの好きな作家は見つかっただろうか。また、読んだことがないという作品を見かけ人は、もしよければ手に取ってみてほしい。
次回、各作品(の一部)について、簡単な短評を付す予定である。