深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

「奇想天外の本棚」(国書刊行会)刊行予定情報まとめ(2022/9/18時点)

これまでもtwitterfacebookにて度々「刊行予告」を出してきた編者氏が、先日「第一回配本間近なので、二期以降順不同で発表します。」ということで、大量の刊行予定情報をtwitterにて投稿された。

以下、現状国書刊行会HPにて「第一期」として発表されているものを除いた分の情報を整理する。なお、明らかな誤り(作者名の綴り間違いなど)は修正している。またナンバーについては、氏のツイートのものには重複や脱落が多く見られたため、単純に登場順に振り直していることをお断りしておく。

※タイトルの後ろに付した■は新訳(50-60年代に旧訳あり)を、★は「10年留保の対象外」を示す。

---

13:Philip MacDonald, The Polferry Mystery, 1931 『ポルフェリーの難問』

14:Francis Bonnamy, The King Is Dead on Queen Street, 1945 『王、女王街に死す』
→「幻のポケミス」の一冊(http://www.green.dti.ne.jp/ed-fuji/column-pocket.html

15:Harry Stephen Keeler, Sing Sing Night, 1928 『歌う歌う夜』

16:Harry Stephen Keeler, The Amazing Web, 1930 『驚愕の蜘蛛の巣』

17:Miles Burton, Three Corpse Trick, 1944 『三つの死体のトリック』

18:Philip MacDonald, The Link, 1930 『輪』   

19:John Dickson Carr, The Island of Coffins, 2021 『棺桶島』→カーのラジオドラマシリーズ『B-13号船室』のシナリオ全訳、Crippen & Landru刊。

20:John Dickson Carr, Poison in Jest, 1932 『毒の戯れ』■

21:John Dickson Carr, The New Canterbury Tales, 未刊行 『新カンタベリー物語』→カーが学生時代に書いた連作短篇、単著収録は2022年にCrippen & Landru刊予定の The Kindling Spark が初。

22:Philip Jose Farmer, The Adventure of the Peerless Peer, 1975 『シャーロック・ホームズ/ザッハクラウトの冒険』★→以前も「H・P・ファーマー」と表記して間違いを指摘されている、『ドタバタSF大全集-別冊奇想天外3-』からの再録+αを想定?

23:J. F. Suter, Old Land, Dark Land, Strange Land, 1996 『古い土地、暗い土地、奇妙な土地』★→上記短篇集ではなく、1970年以前の短編のみのオリジナル編集版か?

24:Robert Bloch, Nightmares, 1961 『悪夢』→ロバート・ブロックの短篇書誌はかなり複雑だが以下整理してみよう。
Nightmares は、Arkham Houseから出た二冊の短篇集を再編集した短篇集の上巻にあたる(下巻は翌年に出た More Nightmares)。
②収録作から見て Nightmares Pleasant Dreams -- Nightmares (1960) の抜粋版と言える。
③その Pleasant Dreams -- Nightmares は『楽しい悪夢』としてハヤカワ文庫NVから刊行されている。
Pleasant Dreams -- Nightmares 収録作のうち一部の作品(「影にあたえし唇は」「灯台」「地獄行き列車」)は『楽しい悪夢』に収録されていないが、後のオリジナル編集の短篇集に別途収録されている。(『ポオ収集家』『ハリウッドの恐怖』)
結論:中途半端な Nightmares を新訳刊行するくらいならその元版である Pleasant Dreams -- Nightmares を翻訳する(=並び順をArkham House版準拠とし、更に Nightmares に収録された序文も併せて収録する)方が意義がありそうに思える。(追記)

25:James Gould Cozzens, Castaway, 1934 『デパート漂流』

26:Hilda Lawrence, Death of a Doll, 1947 『人形の死』→『墜ちた人形』として2000年に小学館文庫から刊行されている。

27:Mabel Seeley, Listening House, 1938 『耳すます家』■

28:Christopher Fowler, The Victoria Vanishes, 2008 『ヴィクトリア消失』★→内容は不明だが、本邦未紹介シリーズの第六作をいきなり出すのは冒険的。

29:Hilary St. George Sanders, The Sleeping Bucchus, 1951 『眠れる酒神』→ピエール・ボアローの初期長編『三つの消失』(『大密室』(晶文社)収録)を著者の許可の上で翻案したものらしい。

30:Jackson Gillis, The Killers of Starfish, 1977 『ヒトデの殺人者たち』★→テレビドラマ『刑事コロンボ』などで脚本を提供している作家。

31:Leo Bruce, Case with 4 Clowns, 1939 『四人の道化師の事件』

32:Daniel F. Galouye, Dark Universe, 1961 『暗闇世界』

33:H. H. Holmes, Rocket to the Morgue, 1942 『死体置き場行きロケット』■

34:Anthony Boucher, The Case of the Seven Sneezes, 1942 『七つのくしゃみ事件』

35:Anthony Boucher, The Case of the Seven of Calvary, 1937 『ゴルゴタの七』■

36:Joyce Porter, Dover: The Collected Short Stories, 1996 『ドーヴァー警部捜査せず』★→上記短篇集ではなく、1970年以前の短篇のみのオリジナル編集版か?

37:Stephen Barr 『スティーヴン・バー短篇集』→原書未刊行、雑誌掲載作を集めたオリジナル編集版を想定?

38:Hilda Lawrence, Blood upon the Snow, 1944 『雪の上の血』■

39:William Mole, Skin Trap, 1957 『皮膚の罠』

40:Thomas Sterling, The Silent Siren, 1958 『歌わない人魚』

41:Ed Lacy, Dead End, 1959 『行止まり』■→Dead End は『さらばその歩むところに心せよ』(Be Careful How You Live)の別題との由。確かに新刊で手に取れるに越したことはない作品だが……(追記)

42:Harry Kurnitz, Invasion of Privacy, 1955 『殺人シナリオ』■

43:Rob Reef, Tod eines Geistes, 2019 『幽霊の死』→FacebookのGADコミュニティでよく見かける投稿者で、1930年代のイギリスを舞台にクラシックな作風のミステリを書いている作家のシリーズ第五作。自分の本を読んで評価してくれる人がいないと嘆いているのがよく観測されるので、翻訳されたら喜びそう。(追記)

44:Christopher Bush, The Case of the April Fools, 1933 『四月の魚事件』→仮題と完全に該当する作品がないが、"April" 繋がりでこの作品ではないかと推測されている。(追記)

45:Thea von Harbou, Metropolis, 1927 『メトロポリス』→フリッツ・ラングの映画のシナリオ?

46:Louis Zangwill, A Nineteenth Century Miracle, 1897 『19世紀奇跡の怪事件』

47:Eric Frank Russell, And Then There Were None, 1951他 『そして誰もいなくなった』→表題作を含む中篇集。

48:Arthur Morrison, The Dorrington Deed-Box, 1897 『悪党探偵ドリントンの証文函』

49:S. A. Duse, Doktor Smirnos Dagbok, 1917 『スミルノ博士の日記』■

50:Peter Dickinson, The Yellow Room Conspiracy, 1994 『黄色い部屋の陰謀』★

51:Helen Eustis, The Holizontal Man, 1946 『水平線の男』■

52:Christopher Bush, Cut Throat, 1932 『喉切事件』■

53:James Hadley Chase, No Orchids for Miss Blandish, 1939 『ミス・ブランデッシュにやる蘭はない』→無削除初版を底本とするとのこと。

54:Algis Budrys, Rogue Moon, 1960 『無頼の月』→アトリエサードが随分前から刊行予定を挙げている。

55:Curt Siodmak, Gabriel's Body, 1991 『ガブリエルの身体』★

56:Christianna Brand, Cat and Mouse, 1950 『猫とねずみ』■

57:Christianna Brand, The Chinese Puzzle, 未刊行 『中国パズル』→名のみ聞くコックリルものの未刊行長編。

58:Michael Venning, Murder Through the Looking Glass, 1943 『鏡の国の殺人』→『もうひとりのぼくの殺人』として2000年に原書房から刊行されている。

59:Agatha Christie, The Hollow, 1951 『ホロー館の殺人(戯曲版)』→『ホロー荘の殺人』の戯曲版。日本公演の際には瀬戸川猛資が翻訳したと聞くがそれを採録するのか?

60:S. A. Steeman, Un dans trois, 1932 『三人の中の一人』■

---

私は個々の作品について出来不出来の観点から収録の是非を語る立場にないが、26や58のようなここ20年ほどで翻訳刊行された作品、また、57のようなテキスト自体が未刊行の「幻以前の作品」が含まれていることに企画自体の危うさを感じてしまう。チェック機能が働いていないのではないだろうか?

また、翻訳権取得の問題もある。1970年以降刊の作品は翻訳権取得が必須だが、編集部がそれを無条件に認めるかは分からない(第一期作品でも、エドワード・D・ホックの作品は要取得)。また「短篇集が出たのは近年でも、オリジナルテキストを初出誌から採っているから翻訳権取得の必要はない」というのは常套的な言い抜けだが、カーのラジオドラマシナリオや初期作品において、Crippen & Landru の書籍を底本とするのであれば(道義的には)翻訳権フリーにはならないだろう。

同じく翻訳権取得の問題でも、「海外の著作物の翻訳が10年出ていないときには、日本ではその作家の翻訳+印刷による複製の権利が切れる」の条文がネックになる場合もある。例えば56は「原著刊行1950年、翻訳刊行1957年」である。ブランドは88年に亡くなったので、再度の翻訳刊行に当たって翻訳権取得が必須なのではないだろうか(ただし、翻訳権の問題については個々の作品で状況が異なるため一概には言えない)。

上記のリストを公開する上で、編者氏がこういった事情も全て加味しているのか、あるいは思いつくままに並べただけなのかは分からない。本当にこれらの作品が新訳で書店に並ぶ未来が訪れるのであれば興味深いが、そもそも第一期12冊が出揃っていない(というか一冊も出ていない)現状を鑑みれば、あまり先々のことを考えると鬼が笑い死にするというものだろう。「幻のポケミス」じゃあるまいし。

 

(追記)2022/9/19 ご本人のツイートにて、クリストファー・ブッシュが重複していたので再検討し、以下の6冊を追加するとの由が発表された。

61:Anthony Boucher, The Case of the Solid Key, 1941 『硬い鍵の事件』

62:Philip MacDonald, Persons Unknown, 1931 『正体不明の人物/推理の演習』→『迷路』として2000年にハヤカワ・ミステリから刊行されている。ただし、挙げているのは先行する米版のタイトルで、英版を底本としているだろう早川版と内容が異なる可能性がある。

63:Ed. by Tony Medawar, Bodies from the Library, 2018 『図書館からの死体』→過去にレビューを書いたことがあるので貼り付けておく。未紹介の良作ももちろんあるが、既訳率が結構高いのが気になる。

deep-place.hatenablog.com

64:Noël Vindry, La Bête hurlante, 1933 『吠える獣』→中川潤氏訳による『獣の遠吠えの謎』が本年刊行された。書影は近年翻訳された英版のものだが、中川氏が翻訳を担当するのではないのか?

65:Nicholas Blake, There's Trouble Brewing, 1937 『悪意の醸造』■

66:John Dickson Carr & Val Gielgud, 13 to the Gallows, 2008 『13の絞首台』→カーの演劇台本。ギールグッドと共作した二篇+カー単独の二篇を収録。

 

(追記2)2022/9/20 初投稿時に「詳細不明」としていた41,43,44について、編者氏のFacebookの投稿を参考に、現状分かる限りの情報を追加した。