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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

読書日記20230630-0701(『すり替えられた誘拐』【★★★★☆】)

 twitterがどうもあやふやになりかけているので、ブログで記録を書くことにした。概ね買った本、読んだ本の報告くらいだと思います。
【追記】紹介本タイトル、五段階評価を追加しました。

 

■20230630-20230701

 実家に帰る。理髪店に行く。蕎麦屋で食事。たまには親に外食をおごるのも悪くはないだろう。

・買った本

 石川喬司・結城信孝編『黄金の腕』光文社文庫
 高島俊夫『本が好き、悪口言うのはもっと好き』ちくま文庫

・いただいた本

 ロバート・アーサー『ガラスの橋』(扶桑社ミステリー)

 新刊を編集部から謹呈でいただく。ありがとうございます。

 

・読んだ本

 D・M・ディヴァイン『すり替えられた誘拐』創元推理文庫

 最近新刊(どころか本自体)をまったく読めていないので、とりあえず安定した作家の作品からリハビリを開始。twitterで読んだと書いている人は皆微妙な口ぶりをしていたのでどのようなものかと思ったが、なるほどこういう作品ですか。
 物語の前半では、①大学内で窃盗を行ったという容疑で逮捕された青年の地位回復を求める運動をめぐるいざこざ、②結婚寸前だった女に浮気されて別れたばかりのブライアン(主人公、ギリシャ語講師)の周囲で展開されるストーリー、の大きく二つが並行的に描かれていく。それらを結ぶのが、学内きってのアバズレ(これも死語ですな)女生徒バーバラ。彼女の父親が大学へ莫大な寄付金を出していることから、色々な問題の焦点になっている。彼女を誘拐したと見せかけて大学当局を揺さぶってやろうという学生運動サイドの浅薄な計画が失敗に終わった、と見えて実は……。
 ひとつ死体が転がってからは一応探偵小説風な展開を見せる。警察サイドの話は時たま出てくるだけでしかも何の役にも立たないが、それに対して素人探偵たちが独自の立場からあれこれ論理を展開してみせる、といういつものディヴァイン・メソッド……なわけだが、本作ではそれ以前の問題としてヤレヤレ系ムッツリのブライアンに対して、何とか弟の無罪を証明してほしいと媚び媚びで頼み込む、バーバラの愛人マイケル(人間のクズ)の姉のローナがとにかく痛々しい。本当に何考えてんだろ、この女。
 謎解きの糸口になるのがイギリスの大学の入試システムであり、内部の人間ゆえの違和感であるというのはちょっと面白い。ディヴァイン自身、大学の事務員であったという前歴がありますからその辺りはお手の物だったのでしょう。
 そこで疑惑を持たれた男こそがマイケルを陥れた真犯人だった……という訳で、謎解き自体はここで終了。以降は、真犯人がなぜマイケルを憎悪するに至ったかという人間研究になっていく。本格ミステリを求める読者にとってはがっかりだったかもしれんが、個人的にはここから大フィーバー。「全能感に溢れているが、実態としては有能と言えない勘違い男」と「世の中辛いことばかりだけどきっと誰かが助けてくれる……と信じて努力しない甘え男(自分がすべての元凶なのに何勘違いしているんだ! でもそれを許してしまうダメンズ育ての女たちもクソだよね~)」のダメンズバトルでめちゃめちゃ笑わせていただきました。ブライアンの母親もまた浮気の末に離婚、父親に引き取られたブライアンが母親のことを許せずにいる……というサイドストーリーもあり、この作品が「浮気」(とそれに伴って生じる人々の感情の軋轢)を重要なファクターとして描いているのが分かる。うんうん、イギリス人作家はやっぱりこういうブラックユーモア小説を書いてナンボやねん。個人的には本作を「’60年代の『大転落』」だと評価しています。
このミステリーがすごい!」や「本格ミステリベスト10」で上位に食い込むことはないだろうが、この作者が好きだという人なら必読の作品だと思う。