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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

買った本・読んだ本(12/18-12/24)

前週の飲み会三回(うち一回は仙台)でヘロヘロになってしまい、本を買えずまた読めずの週であった。

■買った本(含む届いた本)

ルーシー・ワースリー『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』原書房
中村融編『星、はるか遠く』(創元SF文庫)
・James Ronald, Murder in the Family
・Arthur Porges, These Daisies Told
・Arthur Porges, The Devil and Simon Flagg

ルーシー・ワースリーは『イギリス風殺人事件の愉しみ方』などの訳書がある歴史家。本書は「アガサ・クリスティーの画期的な伝記」として去年英米で話題になっていたのが早々に翻訳されたもの。「とらえどころのない」はよく言ったもので、アガサ・クリスティーという作家は終生、いや死後さえも「読者にとって分かりやすい『役割』の仮面(それが逆に「とらえどころのなさ」を生んだ)」を手放そうとはしなかった。本書は未発表作品、また自伝・これまでの伝記で意図的に避けられてきた部分を組み込んで、その仮面の下の「女性の本音」の姿を描き出そうとしている。今のところ1926年の失踪事件のところまで読んだが(ちょうど半分)なかなか面白い。

クリスティーの失踪事件と言えば、そういえば今年は早川書房からニーナ・デ・グラモン『アガサ・クリスティー失踪事件』も出ていた。アガサの夫アーチーの不倫相手ナンシー・ニールをヒロインに、彼女がいかに生まれ育ち、アーチーという運命の相手と出会ったかというロマンスパートと、アガサ失踪にまつわるごたごたのパートを描いて、クリスティー神話の脱構築を狙っている。クリスティーほどの著名人となると、ヒストリカルロマンスの敵役にされてしまうかと驚いたが、それ以上のものは何もない。即座に忘れていい凡作です。

■読んだ本

先週届いた Patrick Quentin, Exit Before Midnight 所収の中編 "The Gypsy Warned Him" を1日10ページずつタラタラと読んでいた。大判サイズで60ページ以上あるので、分量としてはかなり多い。こんな話。

久々の上陸休暇でバーに入った海兵のリュウは、たまたま居合わせた男に「ジプシー娘のサリーに運命を占ってもらうといい」と言われる。半信半疑で席に着くと、「青い瞳のブロンド娘に出会う。彼女はあなたの人生を変える」との託宣が。その矢先、バーに駆けこんできたセクシーなブロンド娘、エイプリルから「兄を助けて欲しい」と言われたリュウは、ホイホイと彼女に付いていってしまう。待ち合わせ場所として連れていかれ、一人取り残された部屋に置かれた酒が睡眠薬入りのものだったことから「不穏」を感じ取ったリュウは家探しを始める。そこにあったのは、自分と同じ背格好をした海兵の刺殺死体であった……

これでおおまかに10ページ。死体は誰のものなのか。エイプリルはこの死に関わっているのか~というところから、物語は勢いよく進み始める。もんどりうってのどんでん返しを繰り返しながら、最後はきちっと意外な犯人を提示して終わる辺りは、名手の名手たるゆえんといえよう。

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1940年代のクェンティンにはスパイスリラー(国内に潜む敵性市民との対決を描いた、国策協力的なサスペンス小説)がかなり多くあって本編もその一つ。具体的には、以下の通り。戦時中のダルース夫妻は、中編ではこんなことをやっておるのだった。

・Death Rides the Ski-Tow, 1941/4(ダルース夫妻物、邦題:「死はスキーにのって」)
・Murder with Flowers, 1941/12(ダルース夫妻物、『人形パズル』の原型作品、未訳)
・Hunt in the Dark, 1942/10(ダルース夫妻物、未訳)
・The Gypsy Warned Him, 1943/10(本編、未訳)

実際、当時のパルプマガジン/スリックマガジンにはこの手の犯罪小説が山ほど載ったはずだが、その視点からの研究というのは寡聞にして知らない(もしあればご教示ください)。ここにダルース夫妻ものの短編二つを足して『ダルース夫妻のためのパズル+α』みたいな本を作ればそこそこ売れるのではないかしら。知らんけど。