田中相『LIMBO THE KING』感想
田中相『LIMBO THE KING』(ITANコミックス)を1巻から3巻まで一気に読んでしまった。3巻は今月の頭に出たばかり。私はKindleでまとめ買いした。
twitterで試し読み広告が回ってきたのが事の発端。個人的にはSNSの広告をクリックすることはまずないので、超レアケース。で、150ページ分(EPISODE5まで。なお、1巻はEPISODE6まで収録)をぱぱっと読んで、そのまま単行本を買ったという訳。完全に広告に釣られてしまった。
まったく知らない作家のまったく知らない作品なので、以下の紹介については多分に不備があると思うが、そこはご容赦くだされ。
さて、物語の舞台は2086年のアメリカ西海岸(そう、本作は近未来を舞台とした作品なのだ)。主人公のアダム・ガーフィールドは米海軍所属の陽気な軍人(28)。職務上の事故で片脚を失った彼は、退役になる代わりにある特殊な部署への転属を命じられる。「眠り病」という、既に終息したはずの特殊な病気を「治療」することを目的とした部署、CNAS。アダムは、かつてその部署に所属していた伝説的な「ダイバー」、八年前に眠り病を終わらせた「リンボ・ザ・キング」と極めて適合率が高い、「コンパニオン」候補者だった……とはいえ、これだけ書いてもまったく分からないと思う。読者は、アダム(軍属だが、眠り病についての知識は一般人レベルで、治療については何も知らない)と一緒に「眠り病」について、そして相棒となる「リンボ・ザ・キング」、ルネ・ウィンターについて少しずつ学んでいくことになるのだ。
メインの登場人物についてひとくさり。アダムは極めて一般的な感性を持つ気のいい兄ちゃんという感じ。いい女がいると口説いてみるし(ただしみんなパートナー持ちなのだ;;)、年の離れた弟妹や婆ちゃんをとても大事にしている。「ダイブ」への偏見を持ちながらも彼がその仕事を受け入れたのは、一つには彼らの生活を安定させるためなのだ。人のパーソナルスペースにぐいぐい入ってくるし、ちょっと騒がしい。でもユーモアのセンスはたっぷりで周囲に人の輪が絶えない、というタイプ。その相棒であるルネは、対照的に謎めいた人物として描かれる。多分三十代中盤。ガッチリ系のアダムと並ぶとその貧相な体格が目立つ。八年前に英雄となったが、今は一線を退いていて、極めて非協力的。なぜ彼が一線を退いたのかは現時点では謎、娘がいるがじゃあ母親は誰なのかというのも謎。ルネ自身も語らない。誰も聞けない。アダムも無理には聞かない。ただ、猫を飼っていたり(作中ではペットを飼うのは法的に禁じられているので、アダムも大興奮)、里親に出している娘を何よりも大事にしていたりと、読者の心をくすぐる可愛さが滲み出てくるのは嬉しい。
この二人のコンビを中心に物語は進んでいく。一巻はややスローペースで、実際にダイブするまでがものすごく長かったが、後半は一気に読者を引き込んでくる。根絶されたはずの「眠り病」が再び流行り始めたのはなぜか、しかも一度治療しても再発するタイプに進化?しているのはなぜか、流行の裏には組織的な陰謀があるのか……謎また謎の展開が連打される。CNASを含めて誰ひとり信頼できない状況で、アダムとルネは独自の行動に移ることに、という二巻後半以降の展開が激熱である。さらに三巻ではアダムの近親にも危機が迫り……やや古めかしいタッチの画風(80年代風?)で、アクションシーンは弱いが心理描写は抜群。個人的には、清水玲子の『秘密 -トップ・シークレット-』をちょっと思い出しました。
海外ドラマ好き、刑事ドラマのバディ物好きな人はきっと楽しめる作品だと思います。とりあえずお試し読みだけでもどうぞ。
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