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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

CADS76号到着

ここもとtwitterの知り合いが次々にブログを立ち上げては真面目な書評を掲出しまくっている(毎日更新は偉い)ので、私もふと更新を考えました。しかし最近は新刊すらまともに読めておらず(仕事が忙しいのではないですが)、諦めかけていたところで、面白いものが到着しましたので、ご報告も兼ねて更新することにしました。

CADS(Crime and Detective Stories)とは英国の伝統あるミステリファンジン、ようするに同人誌です。EQFCとか、SRの会とか、ROMとか、日本にも恐ろしく濃い衆が集まって同人誌を刊行しているサークルがありますが、それらと同列、いやあるいはそれ以上のハイパークオリティで不定期刊行を続けているとのこと。

中の人(ジェフ・ブラッドレイさん)が相当アナクロな人であるらしく、CADSにはホームページすらありません。お申込方法は「ジェフさんに直接メールを書く」の一手のみ。英語自信ないニキの上コミュ障の私に、ゼロ面識の人にいきなりメール書けってか……と、これまでは腰が引けていましたが、ふとtwitterで「CADSってどうやって申し込んだらいいんすかね」とガバガバにもほどがあるツイートをしたところ、親切な方が「注文用の例文付けてあげるから、これだけ送ればOK」と教えてくださり、ヒョウ、優しい人もいるもんだ!と即注文いたしました。

で、大体1週間くらいで到着。航空便で11ポンドということは、大体2000円くらい。まあこんなもんでしょう。同人誌だからね。

で、肝心の内容について。

巻頭を飾るのは、トニー・メダウォー(バークリーのThe Avenging Chance~とか、最近コリンズ社が刊行し始めたクライム・クラブ・クラシックの序文書いてる人)の、セイヤーズの手稿を調査した結果報告。これを読みたくて買ったようなもんです。完成作品と言えそうなものは "The Locked Room" という一編のみ(しかし、ピーター卿が密室ミステリに挑戦する作品なら読んでみたいかも)。他は、既存の作品の下書きが多かったようですが、こういう調査するのって楽しそうだよね。英国人に生まれたかったかも、と思う瞬間です。注釈もかなり細かく付けられており、完全に論文の体でした。

他、ピート・ジョンソンによるアンドリュウ・ガーヴ紹介(『落ちた仮面』、『モスコー殺人事件』と、後期の未訳作を中心に紹介。それにしても、日本では代表作とされる『ヒルダよ眠れ』がまったく出てこなかったのは興味深いですね)、B・A・パイク(この人も色々なクラシック・ミステリの序文で見かけます)による、H・C・ベイリーの短編集紹介(これはシリーズものらしく、今回は第11回で、This Is Mr. Fortune という1938年の作品集を紹介しています。残念ながら全編未訳)、1990年代の割と新しい作家を紹介する記事が二本、短命に終わったミステリ小説雑誌を紹介する記事、ヒラリー・ウォーをシリーズキャラクターを軸に紹介する記事、などなどなど読みどころ満載でした。私もパラパラ見ただけで全然精読してませんが、皆さん熱気に満ちていていいことだ。

それにしても、「CADS会員が関わった評論本レビュー」のコーナーが熱い。マーティン・エドワーズの二冊(『100冊で振り返る古典ミステリの世界(仮)』と『探偵小説を真剣に―ドロシー・L・セイヤーズ書評集(仮)』)には、「こいつはすげえぜ全員買おうぜ!」と燃えるような筆致で書かれておりました。私も早く読まんとな。

ちょっと面白かったのが、新刊レビューコーナーに大阪圭吉 The Ginza Ghost の長文書評が載っていたこと。我らが圭吉さんを現代のエゲレスの人はどう評するんだ、と眺めたところ、「「灯台鬼」はお気に入りの一作」とか「「寒の夜晴れ」は不可能犯罪ものの秀作」とか「「坑鬼」は集中最も長く、また優れた作品」とか、洋の東西を超えたシンパシーを禁じ得ませんでした。最後のワンパラグラフをざっと紹介しますと、「総合的に見て本書は優れた短編集であり、ぜひ読むべきだ。大阪はいくつかの作品で同様のトリックやテーマを使いまわしているけれど、読み終わるまでそのことに気がつかないほど熱中させられた。いくつかの解決は、優れて想像力に富んでおり、この時代の日本でこれほど西洋的な考え方が受け入れられていたことには驚きを覚える。また、伝統的な英米のミステリとはまったく異なる「他者性」をいくつかの作品で感じた。大阪が若くして亡くなったのは大変残念なことだ。いずれ彼の「HONKAKU」作品が翻訳紹介されるだろうが、その時を首を長くして待っている」……おお、ニック・キンバーさん。顔も知らなければ名前も今日初めて知ったほどだけど、あんた僕らの仲間だよ。

 次はもうちょっと早く更新します。

 

The Ginza Ghost (English Edition)

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銀座幽霊 (創元推理文庫)

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The Story of Classic Crime in 100 Books

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