Re-ClaM Vol.1 サンプル③『マーティン・エドワーズ氏への10の質問』
最近本がまったく読めていなくて日記も停滞気味ですが、取り急ぎ同人誌の方の状況をお知らせします。
11月25日の第27回文学フリマ東京にお越しいただいた方、ありがとうございました。おかげさまで、新刊のRe-ClaM Vol.1 および委託販売のROM s-002 とも、オリジナル評論としてはかなり多くの部数を頒布することができました。Twitterなどでも、既に多くの方の感想を拝見しております。伏して感謝。
25日の17時以降、書肆盛林堂様にてRe-ClaM Vol.1 の通販が開始されています。一時的に品切れになることもありましたが、現時点でも購入することが可能です。まだお買い上げになっていない方がいらっしゃいましたら、ぜひご利用ください(ROM s-002 は元の部数が少なかったこともあり、既に完売となっております)。
今回は、「マーティン・エドワーズとは一体誰か?」というところから分からない、という方のために、エドワーズが本誌のために応えてくれたインタビューの内容をご紹介します。氏がイギリスのクラシックミステリに精通している編集者であるのはもちろんですが、現代日本のミステリも含めて多くの本格ミステリに興味を持ち、広く紹介している書評家でもあります。我々日本の読者にとってもシンパシーを感じさせる彼の魅力をぜひ知って下さい。なお、「※」は、今回の記事用に追記した内容となります。
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マーティン・エドワーズ メールインタビュー(2018年7月26日実施)
Q.01:あなたはいつ頃ミステリを読み始めましたか。また、最初に読んだミステリは何でしたか?
A.01:私が初めてミステリを読んだのは、9歳の誕生日を迎える少し前でした。その時読んだのがアガサ・クリスティーの『牧師館の殺人』です。それ以来、私はこのジャンルに「ハマって」しまいました。
Q.02:逆に、あなたが最近読んだ作品のうち、印象に残っているものはどれですか?
A.02:アンソニー・ホロヴィッツの The Word is Murder です。非常にスマートな作品でした。
※ホロヴィッツは本年『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)が紹介された作家。その最新作が The Word Is Murder です
Q.03:あなたが今一番興味を持っている古典作家を教えてください。また、それはなぜですか?
A.03:注目している作家は多いですが、一人挙げるならリチャード・ハルでしょう。多様かつ高度に独自性の高い作品を書いた作家ですね。
※ハルについては『探偵小説の黄金時代』でも、『善意の殺人』や未訳の My Own Murderer などに言及していました。『伯母殺人事件』だけの作家ではありません。
Q.04:あなたが過去に編纂したアンソロジーのうち、気に入っているものを教えてください。
A.04:おやおや、随分と変わった質問をするのですね。私はこれまで、「ブリティッシュ・ライブラリー・クライム・クラシックス」に収録したものも含めて37冊のアンソロジーを編纂しました。その中でも英米以外の国で書かれた、他で読むのが難しい短編を集めた Foreign Bodies が気に入っています。
※ Foreign Bodies には、大阪圭吉「寒の夜晴れ」や甲賀三郎「蜘蛛」などが収録されています。
Q.05:「ブリティッシュ・ライブラリー・クライム・クラシックス」の中で、気に入っている作家・作品を教えてください。
A.05:アントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』です。素晴らしい作品ですし、今回の叢書に加えるに当たって私の方で新しい解決を書き下ろしたのも印象的でした。
Q.06:『探偵小説の黄金時代』を読んだ読者が次に読むべき、クラシックミステリの研究書は何だと思いますか?
A.06:私の The Story of Classic Crime in 100 Books を除くと(笑)、私が編集したドロシー・L・セイヤーズの書評集 Taking Detective Stories Seriously 、それからジュリアン・シモンズの『ブラッディ・マーダー』(新潮社)が優れています。
※ The Story of Classic Crime in 100 Books については、先日序文のサンプルをアップしました。ぜひ翻訳されてほしい本ですね。
Q.07:『探偵小説の黄金時代』で取り上げた作家のうち、特に思い入れの強い作家は誰ですか?
A.07:アントニイ・バークリーは、私にとって非常に重要な作家です。彼は精力的かつミステリアスな人物であり、本名/フランシス・アイルズ名義の両方でいくつもの素晴らしい作品を生み出しました。
Q.08:あなたは日本のミステリを読んだことはありますか。そのうち印象に残っている作品を教えてください。
A.08:日本のミステリにはいい作品がたくさんありますね。たとえば有栖川有栖『孤島パズル』や、夏樹静子『第三の女』などが思い出されます。その中でのベストは東野圭吾『容疑者Xの献身』かもしれません。ただ、一冊に絞るのは非常に難しいです。
Q.09:あなたの長編作品は残念ながらまだ日本語に翻訳されていませんが(短編はいくつか翻訳されており、雑誌で読むことができます)、読み始めるならばこの一冊というおすすめの作品を教えてください。
A.09:ハリー・デヴリンが主人公のシリーズは、古典的なフーダニットに近いスタイルなので楽しめると思います。特に、 Yesterday’s Papers などはその傾向が強いです。また、1930年を舞台にした単発のスリラー小説 Gallows Court が近日刊行の予定ですが、私自身も出版を心待ちにしています。
※この二作について、本誌でレビューを掲載しました。
Q.10:日本のクラシックミステリファンに一言お願いします。
A.10:私は、かねてよりディテクション・クラブの会長として、「本格ミステリ作家クラブ」の皆さんと連絡を取り合うことを楽しんできました。いつの日か日本を訪れたいとも考えています。
私は日本語を読むことができませんが、密室の謎に関する素晴らしいイラストの本を持っています(訳者注:『有栖川有栖の密室大図鑑』)。残念ながら文章の意味は分からないのですが、それでもなおとても楽しむことができました。
私は世界中のミステリ作家、ミステリファンが繋がりを持つことができれば素晴らしいと考えており、日本の皆さんとお話しする機会を持つことにも大変興味を持っています。私はこれからも日本のミステリを楽しく読み続けることでしょう。そしていつか、私の作品が日本語に翻訳されることを祈念して已みません。
※エドワーズと、本格ミステリ作家クラブの関係については、芦辺拓「マーティン・エドワーズ氏の印象」を参照のこと。
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