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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

本を読んだら書く日記20181116|島田荘司『切り裂きジャック・百年の孤独』

昨日twitterなどでも書いた通り、「Re-ClaM Vol.1」の印刷が仕上がったので盛林堂書房に取りに行った。ほぼ同時に到着したという大阪圭吉『花嫁と仮髪』(いかに大阪圭吉が人気作家とは言え、商業ではとても出来ない領域を商業並の規模でやってるド偉い仕事……まあ商業(論創社・戎光祥あたりか、万が一やるとしたら)がそこまでの極小規模でやっているという意味でもあるのだが)を献本いただく。ありがたい限り。文フリ前に感想を上げて宣伝しようかな。さらに、「ROM s-002」も届いていたので受け取ってしまう(実は昨日の昼時点で自宅に一冊届いていたという罠が)。こちらも文フリのブースで委託販売を行いますので、ROM会員ではないが欲しいという人は是非お求めください。

 

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島田荘司切り裂きジャック百年の孤独』(集英社文庫を読んだ。あらすじは表4を引用する。

初秋のベルリンを恐怖のどん底に叩きこんだ娼婦連続猟奇殺人・喉笛を掻き切り、腹を裂き、内臓を手掴みで引き出す陰惨な手口は、19世紀末ロンドンを震撼させた高名な迷宮入り事件――切り裂きジャック事件と酷似していた。市民の異様な関心と興奮がつのる一方で、捜査は難航をきわめた。やがて奇妙な人物が捜査線上に現れた…。百年の時を隔てた二つの事件を完全解明する長編ミステリー。

19世紀末のロンドンと、百年後の西ベルリンとを対比させながら都市の姿を描きつつ、その中で流行する病理としての切り裂きジャック熱狂<フィーバー>」を明らかにしていく、社会学的実験の要素も併せ持つ短い長編。「皮膚」である都市の表層を切り裂いて、「内臓」である本質を凌辱する「ジャック」の所業が島荘の脳髄を刺激したものだろうか。いささか説明的な描写が多く、怪しげな「ミステリ・クリーン氏」が現在と過去の「切り裂きジャック」の謎をファンタジックな切り口から解き明かすシークエンスに移った瞬間の違和感はかなり大きい。

本作で描かれる異様な動機については、正直議論の余地がある(特に過去の「ジャック」については「何の根拠もないことをよくもまあ「当然の事実」のように手玉に取れるもんだ」と呆れる部分もある、それがまた島田荘司の魅力ではある訳だが)。しかし、深町眞理子の解説(の末尾)に辿りついた瞬間、すべての「ファンタジック」という感想がぶっ飛んでしまう。なるほど、これが島田荘司のやりたかったことか、と。この作品はある意味で、「×××× vs. ××××××・××××」だったのだ、と理解できた瞬間に、すべての不満は意味を為さなくなる。やられたね。そのためこの本は、深町解説アリの版でお読みになることをオススメします。(文春文庫がどうなのかは調べてないです)

 

切リ裂きジャック・百年の孤独 (集英社文庫)

切リ裂きジャック・百年の孤独 (集英社文庫)