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深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ翻訳ミステリ。主に新刊の話をしています。そういえば、「アントニイ・バークリー書評集製作委員会」公式ホームページ。

翻訳ミステリ新刊レビュー0914

シン・本格的にシン・刊極道をシン・行しないといけないのですが、いまひとつです。なお、ゴジラは観に行ってないです。

などと言いつつ、わりかし新刊と呼べそうな本を読めたので、感想を書き留めておきます。

 

○レオ・ブルース『ハイキャッスル屋敷の死』(扶桑社ミステリー)  

ハイキャッスル屋敷の死 (海外文庫)

ハイキャッスル屋敷の死 (海外文庫)

 

真田啓介氏の解説で『アントニイ・バークリー書評集』を紹介していただきました。

 

というのは笑える余談ですが、本書、レオ・ブルースの作品としてはなかなかのクセ球です。翻訳のある作品はすべて読んでいる私も、こういう切り口で来るとは予想もしませんでした。舌鋒鈍くいまひとつ要領を得ませんが……ネタばれご法度の作品ゆえ……お許しください。

困るのは未読者の方であり、こんなところに来てしまった時点で、ある程度は覚悟のある読者かとお見受けしますので、ネタばれ二歩手前くらいまで踏み込みます。本書は「脅迫」をテーマにした作品です。「良く分からないが殺意ビンビンの脅迫状を貰った」というシチュエーションに対して、消去を繰り返した後に到達する『最も意外な犯人は誰か』というのは、馬鹿馬鹿しいほど単純な謎です。解けなかった者は痴愚の名は免れぬところでしょう。ただし、それは本書においてはさほど重要ではないのです。

では最も重要な謎とは何か? それはある人物の取り続けるいかにも手緩い態度です。なぜだ?なぜ彼はそう振る舞うのだ? それが明かされる時、読者は醜い真実に直面し、あるいは彼を軽蔑するかもしれません。

ある意味において1957年の作者しか書けない、最も異色にしてさりとて直球のブルース作品です。真芯で打て。そしてお粗末なバットを折られろ。

 

○リー・チャイルド『61時間』講談社文庫) 

61時間(上) (講談社文庫)

61時間(上) (講談社文庫)

 
61時間(下) (講談社文庫)

61時間(下) (講談社文庫)

 

 残り61時間で、物語は終結する。

 

リー・チャイルドはさして器用とも言えぬ、愚直な作家です。降りかかる火の粉を払っては辺り一面を大火事にするジャック・リーチャーに惚れ込み過ぎているようにすら見えるこの作家が、本気でリーチャーを「カッコよく」描いたのが本作です。

雪に閉ざされたサウスダコタ、連邦刑務所の経営に警察が首根っこを握られた街。メタンフェタミンの密売を告発せんとする女性と彼女を抹殺せんと襲い来る殺し屋たち。それにしても裏を掻かれすぎるという事実から浮かび上がる裏切り者の気配。果たして、真犯人はアイツか?コイツか?あるいは……というジェフリー・ディーヴァーなら数十倍の分量でこっちゃんこっちゃんしそうなツイストを、まったく顧みず数行で、しかもその解決をも数行で済ませるジャック・リーチャーさん、最高。パワーこそ正義。

語りの中でみるみる減っていくタイムリミット。読者は「この勢いで時間減っていくのに話は全部収まるのか?」という正直お門違いな心配をこじらせることになるが、そこは一切問題なし。いざとなったら拳で倒す。

死ぬほど単純なエンタメです。難しいことを考えたくない今のあなたにオススメ。

 

ヘレン・マクロイ『ささやく真実』創元推理文庫) 

ささやく真実 (創元推理文庫)

ささやく真実 (創元推理文庫)

 

 それが人の口から出た言葉である限り、嘘と真実になんの違いがあるだろう。

 

マクロイは……ここもとなんでか流行っていますね。今年だけでも『二人のウィリング』(ちくま文庫)に続いて二冊目。『あなたは誰?』(ちくま文庫)や創元推理文庫の諸作品などなど、ほとんど全作品が現役で読めるというのはすごい。

ことに初期のマクロイから感じるのは(精神分析医を主人公においているからという訳ではありませんが)「ページを埋め尽くさなければ・白紙を失くさなければ」という強迫観念さえ感じる「描写」への傾斜です。それは必ずしも精神分析の用語に限らず、芸術しかり科学しかり、あるいは風景描写心理描写、果てはなんでもかんでもみっしりとページに詰め込んで、余白を許さぬ美意識に貫かれたものかもしれません。その膨大なマッスの中にこそ伏線をしっかり置いておく真摯なる姿勢は愛されるのも納得のもの。

されど本作では、それら伏線からの誤導を外しての開陳、ならびにそれらの接続による論理の構築、しかる後の消去法と繋げていく「ロジックの連鎖」がややギコチナイ。しかもそれを最終章残り7ページほどで一息にやってのけようという急ぎ足がモッタイナイ。また、消去法推理の最もやってはいけない締め方を実践しないでほしい、と祈りましたが力が足りず果たせませんでした。残念無念です。

 

次はフィリップ・カー『死者は語らずとも』を読む予定。絶対本年ナンバー10には入るものと確信しています。 

死者は語らずとも (PHP文芸文庫)

死者は語らずとも (PHP文芸文庫)