深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

9月読書記録

看板に偽りしかない週刊読書記録という名の月刊読書記録を更新します。

 

・買った新刊

ジョナサン・ホルト『カルニヴィア3 密謀』(ハヤカワ・ミステリ)

E・C・R・ロラック『曲がり角の死体』(創元推理文庫

ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫

エラリイ・クイーン『チェス・プレイヤーの密室』(原書房

クリスティーナ・オルソン『シンデレラたちの罠』(創元推理文庫

E・R・ブラウン『マリワナ・ピープル』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

フィル・ホーガン『見張る男』(角川文庫)

アンネ・ホルト『ホテル1222』(創元推理文庫

 

・読んだ新刊(評価は超主観。今回から5段階。*はプラスアルファです)

デニス・ルヘインザ・ドロップ』(ハヤカワ・ミステリ)

トム・ロブ・スミス偽りの楽園』(新潮文庫

⑤*ルース・レンデル『街への鍵』(ハヤカワ・ミステリ)

③ラング・ルイス『友だち殺し』(論創海外ミステリ)

④ジョナサン・ホルト『カルニヴィア3 密謀』(ハヤカワ・ミステリ)

②E・C・R・ロラック『曲がり角の死体』(創元推理文庫

②エラリイ・クイーン『チェス・プレイヤーの密室』(原書房

④E・R・ブラウン『マリワナ・ピープル』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

③*ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫

③ベイナード・ケンドリック『暗闇の鬼ごっこ』(論創海外ミステリ)

③*イアン・ランキン偽りの果実 警部補マルコム・フォックス』(新潮文庫

④フィル・ホーガン『見張る男』(角川文庫)

 

④以上の作品について、以下コメント。

 

トム・ロブ・スミス偽りの楽園』は、『チャイルド44』のシリーズで高く評価された作者の待望の新作です。偶然も必然も善意も悪意もすべて呑みこんで、憎悪と嫉妬に満ち、どこまでが本当のことなのか判断できない「自分の物語」を語り続ける母親の狂態を、微かな嫌悪や憐れみを持って見守ることしかできない息子。意図的に排除された父親も含めて誰もが欠落を抱えたまま生きているのが常態のこの世界が、最後のシーンで一瞬だけ救済される。『エージェント6』で示した「家族の物語」の続きをこのような形で描いてみせるとは、と新鮮な驚きを感じさせてくれる作品でした。

昨年亡くなって少なからぬ海外ミステリファンを嘆かせたルース・レンデル『街への鍵』は、実に12年ぶりの邦訳。ロンドン北部に位置するリージェンツ・パーク周辺の地域を舞台に、老若男女入り乱れる群像劇が展開される、という作品です。四人の人物の視点を次々に入れ替えながら物語は語られていきますが、この中でもメインの位置を与えられている妖精のような美女メアリの危うい恋が、他の登場人物たちと同様にレンデルの回す運命の輪の中に絡め取られていくところが非常に巧みに演出されています。その語りにいささか演出過剰な部分もありますが、終盤の展開には眼を離せなくなること間違いなし。現代ミステリーの女王の一人、レンデルの新たな傑作の訳出を喜ぶとともに、続刊にも大いに期待したいところです。

ジョナサン・ホルト『カルニヴィア3 密謀』は、イタリアの観光都市ヴェネツィアと、それを模したネットワークサービスカルニヴィアを巡る国際陰謀小説の第三弾にして完結編です。秘密組織の裏切者を意味する方法で殺された死体の謎を追う憲兵隊大尉カテリーナ、カルニヴィア運営からの引退を決意するも、突如発生した異常事態への対処に追われるダニエーレ、軍人だった父を陥れた陰謀へと敢然と立ち向かうイタリア駐留米軍少尉のホリー。三人がそれぞれ関わった事件が一つの大きな陰謀へと結びつく展開は前二作同様ですが、今回はその規模の大きさ、そして彼らのプライベートへの衝撃度は過去最大です。ハイスピードで展開される物語の結末は酷く苦く、そしてシリーズの幕引きに相応しいモノとなっています。オススメ。

E・R・ブラウン『マリワナ・ピープル』は、カナダの犯罪小説家による第一作。17歳の元天才少年(14歳で大学に入学するも1年で中退、今は地元のコーヒーショップでバイトのバリスタをやっている)がアメリカとカナダの国境を越える麻薬ビジネスへとその身を転落させる様を落ち着いた筆致で、時に滑稽に時に悲惨に描いた秀作です。何しろ彼の暮らす街は彼が知らなかっただけで、ほとんど全住人がなんらかの形で麻薬に関わっているのですから、彼一人が悲壮感に浸ってもギャグにしかならん訳です。青春の儘ならなさに七転八倒し、小金を溜めては可愛い彼女とキャンパスライフを夢想する主人公に幸あれ。ああ、これぞ青春小説。カナダ人作家らしい(?)おかしなくすぐりも満載の良作です。

 

と言ったところでしょうか。あと一冊選ぶなら、ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』をオススメします。ニューロティックサスペンスにありがちなテーマを、数年先取りした非常に先進的な作品ですが、そんなネタよりむしろ、序盤から醸成した「嫌な雰囲気」を中盤から終盤にかけて不穏不信からの恐怖へと一気に昇華するそのストーリーテリングの才に舌を巻きました。だから結末がしょぼくても許せます。むしろ結末で躓かなければ④でした。

 

さて、気がつけば今年の新刊期間もあとひと月。あれもこれも読んでいないのに、もう30日を切ってしまいました。ウソでしょこれからまだまだ出るのに……。

 

論創海外ミステリの新刊は例によって一般書店での刊行がずれこみ10月に入ってから出ました。マーガレット・ミラー『雪の墓標』とロジャー・スカーレット『白魔』です。前者は傑作『狙った獣』の前年に刊行された著者の初期と中期の間の作品で、その出来具合に大きな期待がかかります。後者は、個人的には興味がありません。合わない作家っていますよね。

10月の新刊一発目は、『特捜部Q』でいまやおなじみのユッシ・エーズラ・オールスンの初期作『アルファベット・ハウス』です。栄光のポケミス1900番ということで、期待してもいいのではないでしょうか。私は買いませんけど。

ピエール・ルメートル、正直昨年末からの大大大大大プッシュ攻勢に飽き飽きしているんですが、また出るようです。しかも二冊。お互いに食いあって得しないと思うんですが、売り時って大事よねということで。『その女アレックス』のシリーズの第一作『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)と、最新作『天国でまた会おう』(ハヤカワ・ミステリ文庫)、いずれもバサバサ売れそう。本屋大賞でも取りそう。良いと思います。

同じく文藝春秋からジェフリー・ディーヴァーの『スキン・コレクター』が出ます。リンカーン・ライムシリーズ、いい加減飽きましたね。前作で『エンプティ・チェア』以来久々にお外を駆け廻ったし、ボーン・コレクターの再来だかライバルだかを倒して、そろそろ幕引きにしていただきたいものです。

むしろ愉しみなのは、ポーラ・ホーキンズ『ガール・オン・ザ・トレイン』(講談社文庫)とトニ・ヒル『よき自殺』(集英社文庫)でしょう。前者は米ベストセラーリストの上位を独占し続けたというデビュー作で、当然ハイスミスの『見知らぬ乗客』を踏まえているものと思われます。『グッド・ガール』が良かっただけに、新手の「ガール・ミステリ」には注目してしまいます。後者は堅牢で骨太な警察小説であり、同時に謎の提示から解決まで間然とするところのない緊密な謎解きミステリでもあった前作『死せる人形たちの季節』で(個人的には)フィーバーした作家の第二作。今年翻訳ミステリ部門で当たり作品を出し続けた集英社の締めの一発、大いに期待したいところです。

創元から出る歴史ミステリや北欧ミステリは前情報を入れていないので、まったく分かりません。多分読むので、感想を書けるような良作であればいいなとは思います。

そして10月の論創……レックス・スタウト中編集が出るという噂もあるのですが、果たして奥付10月で刊行できるのか。まったく期待せず見守りたいところです。

 

以上、9月の新刊読書まとめでした。シー・ユー・ネクスト・マンス。

 

 

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

 

 

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

 

 

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

カルニヴィア 3 密謀

カルニヴィア 3 密謀

 

 

マリワナ・ピープル (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マリワナ・ピープル (ハヤカワ・ミステリ文庫)