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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

西澤保彦『悪魔を憐れむ』

ここもと文章を書く能力が絶滅しているのですが、せめてブログの読書感想文くらいは復調せねば、と150日ぶりくらいに更新します。

 

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西澤保彦『悪魔を憐れむ』(2016)は、タック&タカチシリーズの第10作目。シリーズ第1作の『解体諸因』が1997年の発表なので、おおまか20年に渡って書き継がれてきたシリーズとなります。 

悪魔を憐れむ

悪魔を憐れむ

 

 

本書は以下の四つの短編(二つの中編と二つの短編と呼ぶ方が分量的には似つかわしいか)を収録しています。いずれも、実に「作者らしさ」を十二分に備えた作品で、ぶれずに気持ち悪い作風には敬服を覚えるほかありません。

 

この中でも突出して気持ち悪い、それゆえ忘れ難い印象を残すのが巻頭の「無間呪縛」です。

この作品で主人公のタック(匠千暁)は、知り合いの刑事の邸宅の離れで、十三年間に渡って起こり続けてきた心霊現象、そしてそれに伴う怪死事件の謎を解明するよう求められます。とはいえ、現象を引き起こしていた原因そのものは、子供騙しと言ってもいいような機械トリックの組み合わせでしかありません。本編の眼目は「なぜ心霊現象は「続いた」のか」という動機、そしてそこから導き出される「誰がこんなことをしなければならなかったのか」という問題です。その過程で、作者は「一見まったく関係なく見える、実際関係ない事件」と、この心霊現象事件の動機をシンクロさせていきます。今回は「心霊現象が起こるまでの場繋ぎの座談として提示されたネタが実は……」というもの。心霊現象への犯人の執着以上にありえない、あまりにも強烈なご都合展開ですが、西澤ファンとしてはこの程度で驚いてはいけません。二つの事件を力業で結ぶ西澤の執念と、それに反比例するかのように現実性を失っていく犯人の動機。家父長制と母性の執着/依存、男女の絶望的なディスコミュニケーション、と西澤節をギンギンに利かせた力作なので、ファンは必読かと思われます(ファン以外は読んでも呆れるだけでしょう)。

表題作「悪魔を憐れむ」は、状況説明だらけの退屈な前半から、「指一本触れずに人を殺すにはどうしたらいいのか」というネタで悪魔的な天才犯人が喋り倒す後半まで、一貫してつまらないという、ある意味衝撃の中編です。

「意匠の切断」は、三人の被害者のうち、なぜか二人分だけ首と手首を切って展示するという犯人の謎の行動を、タック・タカチ・モブ刑事(酷い扱い)が酒を飲みながら分析する話ですが、そこに「数か月前に起こったバラバラ殺人」を持ちこむのが無理筋すぎる(作中、タカチの謎解きを聞くタック自身も不思議そうにしています)。「なぜバラバラ殺人という行動に至ったか」という道筋を説明するために引かれた補助線ですが、有効な補助線になっていないのが残念。

「死は天秤にかけられて」は、「なぜタックは七か月前に起こった自分には一切関係ないことをここまで詳細に覚えているのか」という言わずもがなの疑問に苛まれること疑いなしの迷作(書き下ろしにあたって過去作品の時系列の辻褄を合わせるために泣く泣くやった西澤先生が目に見えるよう)。「一晩のうちに(しかも1月2日に)、同じホテルで時間をずらして四人の主婦と同衾する絶倫男」というボアン先輩ならではのトンチンカンな妄想が間抜けさを通り越して笑えるコントですね。ミステリとしてはダメダメですが。

以上四編。ウサコの電撃結婚の意味不明さ(「ここで結婚させたらネタになるやん!」と思いついてしまったんでしょうね)がある意味一番面白いという、グダグダ感がある意味シリーズらしさを象徴する作品集でした。広くはオススメしません。

 

評価:★★☆☆☆