『図書室から死体が!(仮)』収録 クリスチアナ・ブランド「不吉なラム・パンチ」
文学フリマも近づく中、皆様いかがお過ごしであろうか。
三門は読むべきであったのに読まなかった原書と今更ながら格闘中。ようやく一冊読み終わったので、そのご報告ということでこの記事を書き始めた次第。
つい昨日まで読んでいたのが、こちら。
去年の夏に出た、「黄金時代作家たちの新発見・未収録短編を集めたアンソロジー」の第一弾である。第二弾は今夏に出るのが既に確定しており、早出し情報によるとエドマンド・クリスピンのジャーヴァス・フェンものの未発表作品が収録される予定とか。まだそんなのが残っていたのか、と驚くばかり。
さて、第一弾に当たるこちらのアンソロジーには、クリスティー、バークリー、ブレイク他16人の作家の作品が収録されている。それらすべてを紹介しようと思うと何千文字あっても足りない(会場限定ペーパー用にレビュー原稿を書き始めたが、既に5000文字を超えた)ので、ここではクリスチアナ・ブランドの "Rum Punch" という作品を紹介する。本編は彼女の未発表原稿の中から発見されたものだそうだが、そのクオリティは本書中でも指折りである。
本作で主役を務めるトルート巡査部長は、実はブランドの他の短編にも出演している。単行本未収録作品の "Bank Holiday Murder" (地方新聞に掲載されていたのが発見され、EQMMに昨年再録された)で、彼と上司のポート警部はスキャンプトン・オン・シーという海の近くの町で起こった殺人事件を解決した。この町は、別の未収録短編 "Cyanide in the Sun" の舞台でもある。ブランドには未収録・未発表作品がまだいくつもあるそうで、それらを集めた短編集が来年出るとのこと(ジョン・パグマイア氏のブログより)だが、他にもこの町を舞台にした作品があるかもしれない。大いに楽しみだ。
さて、本筋に入ろう。月曜日、休日を取ったトルート巡査部長は今週末に妻や娘二人と海に遊びに行くべく、車の整備に余念がない。そんな時、郊外のお屋敷に住むミセス・ウェイトから今夜のパーティの駐車場係をやってほしいという電話が入る。お屋敷に出向き、職務を全うしたトルートに次に与えられた仕事は給仕係だった。彼は特製のラム・パンチをゲストのグラスに次々注いでいくが、自分の注いだグラスを飲み干した直後に屋敷の主人が中毒死するとは思ってもみなかった……毒の出元はそのグラスかあるいは直前に被害者が喫った巻煙草と考えられたが、巻煙草は既に暖炉の中で燃え尽き、また彼が手にしていたグラスも直後の混乱の中で割れてしまった。果たして毒殺の手段はいかなるもので、犯人は誰か……そして管区内での殺人事件につき当然業務が発生したトルートは、週末に家族サービスができるのか?
お客のほとんどは無名の人物で、実質的に容疑者は家族とその親しい友人二名に絞られる。ブランドはそれぞれの容疑者を検討しながら、最終的に意外な犯人とその意外な目的を提示する。逃げ出した容疑者を追ってロンドンへ向かいそいつと大立ち回りを演じ、ある時には容疑者の細かな「言い間違い」に気が付くことで推理を組み立て、最終的に真犯人との心理戦に挑むトルートはまさに「名探偵」の風格を見せている。そういえば前作でも、ポート警部が間違いそうになるたび「その通りかもしれませんがね?」と挑戦的な決まり文句を言って軌道修正していたっけ。
ブランドほどの人気作家の、しかも(かなり出来のいい)未発表短編が次々発掘されているというのに、商業の版元がどこも飛びついていないのは残念(もう三作も出てきているのに)だが、来年の短編集が出た暁には、きっとこの状況にも変化があると信じたいものだ。
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↑今夏出るアンソロジー第二弾。
The Realm of the Impossible (English Edition)
- 作者: Brian Skupin,John Pugmire
- 出版社/メーカー: Locked Room International
- 発売日: 2018/01/17
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↑ブランドの新発見短編”Cyanide in the Sun"はこのアンソロジーに収録されている。
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(補足)
ブランドの未収録短編については、本ブログの以下のページでも紹介している。参考にどうぞ。