深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

8月読書記録

もう9月か、ということで、隔週刊ですらない月刊読書記録を更新します。

 

・買った新刊

アーナルデュル・インドリダソン『』(東京創元社

カーター・ディクスンユダの窓』(創元推理文庫・新訳)

ジャック・カーリイ『髑髏の檻』(文春文庫)

ボリス・アクーニン『トルコ捨駒スパイ事件』(岩波書店

ルース・レンデル『街への鍵』(ハヤカワ・ミステリ)

ハンナ・ケント『凍れる墓』(集英社文庫)

ミシェル・ビュッシ『彼女のいない飛行機』(集英社文庫)

ネレ・ノイハウス『悪女は自殺しない』(創元推理文庫

ラング・ルイス『友だち殺し』(論創海外ミステリ)

マーガレット・ミラーまるで天使のような』(創元推理文庫・新訳)

トム・ロブ・スミス偽りの楽園(上下)』(新潮文庫

デニス・ルヘインザ・ドロップ』(ハヤカワ・ミステリ)

 

・読んだ新刊

⑦ジャック・カーリイ『髑髏の檻』(文春文庫)

⑧アーナルデュル・インドリダソン『』(東京創元社

ジョー・ネスボネメシス 復讐の女神』(集英社文庫)

⑧ミシェル・ビュッシ『彼女のいない飛行機』(集英社文庫)

カーター・ディクスンユダの窓』(創元推理文庫))

 

8月は驚くほど新刊を読んでいないですね。ネスボの既訳作埋め(『スノーマン』『コマドリの賭け』)に驚くほど時間がかかったというのもありますし、コミックマーケットの戦利品鑑賞に時間を思いのほか割いてしまったり(カタリストさんのノベルゲーム『デイグラシアの羅針盤』は大変な良作)、原稿を書いたり、艦これのイベントで死ぬ思いをしたり……これだけ時間を無駄にして、9月10月であと何十冊新刊を読めばいいのか(絶望)。

 

さておき、今月読んだ本はかなりクオリティが高くて、ホッとしました。

大人気カーリイの第七作『髑髏の檻』(翻訳としては六作品目)は、主人公カーソン・ライダーが休暇で訪れた街で起こった連続殺人を、「支配」という十八番のテーマに乗せて描く、まあいつものカーリイです。ただ、今回はカーソンの相棒で口の悪いおっさん刑事ハリー・ノーチラスが欠場していること(代わりに田舎警察のツンデレお姉ちゃんが相方として活躍しますが)、トリックスターとして、今回初めてフル出場を果たす連続殺人鬼の兄ジェレミーが作劇的にあまりにも有用すぎるために、捜査の粗さが隠れていること(地元じゃないし、誰も協力的じゃないし無理もないが)など、やや不満な点もなきにしも。お兄ちゃん教の人と、マッドマックスで喜んでいる人は少し冷静になってください。

インドリダソン『』は、ガラスの鍵賞を連続受賞した『湿地』『緑衣の女』に続く、シリーズ第五作(翻訳としては三作品目)。クリスマスに沸く高級ホテルの地下室で一人、サンタクロースの衣装を纏って死んだドアマンの人生に秘められた栄光、そして転落を周囲の人々の「声」から浮き彫りにする作品で、明らかにこれまでの二作品よりも出来がいいです。同時に児童虐待や刑事エーレンデュルの孤独(クリスマスに殺人現場のホテルの部屋を取って、一人ポツンと座っている)を掘り下げていくのは、北欧ミステリに限らずよくある手ですが、ディテールが上手いのでじっくり移入できます(エーレンデュルがレコードを聴くシーン、非常によいです)。私の周囲では圧倒的に不評な縦書きイタリックだけは絶対に改めるつもりがないようなのが残念です。

ネスボ『ネメシス』は、ハリー・ホーレシリーズの第四作。連続銀行強盗事件の捜査チームに加わったハリーが優秀な若手刑事ベアーテとともに真犯人の意図に迫っていく物語Aと、かつての恋人との再会、そして彼女の死がハリーを思いもよらない泥沼へと引きずりこむ物語Bが、伝説の銀行強盗の元で縄を綯うように一つに縒り合されていきます。その複雑な構成の割に非常に読みやすいのは、物語が頻繁に整理されるからでしょう。細かい捜査の末に分かったことを整理して一つの結末を描き出すや、前提がぶっ飛んで意外な方向に転がっていく、というのはミステリとしてはあるある展開ですが、一つ一つの結論の作り込みの丹念さが読者の心を掴むもので、それをひっくり返されるとアドレナリンがしっかり出ます。興奮します。なお、本作は前作『コマドリの賭け』に続く「トム・ヴォーレル三部作」の第二作にあたります。残念なことに『コマドリの賭け』は現在版元消滅に伴い品切れになり、アマゾンマーケットプレイスなどで高値で取引されていますが、前作の大きなネタバレがありますので、可能な限り本作の前に読むことをお勧めします。

ビュッシ『彼女のいない飛行機』は、ツイッターでこんな感じに書きました。

ミシェル・ビュッシ『彼女のいない飛行機』読んだ。語られるまま与えられるままに探偵グラン=デュックの手記を読み、マルクやリリーとともに心を震わせ頭をひねり、真っ正直に謎に取り組むことで最大限の衝撃をぶち込まれるという類の本であり、変に歪んだ読み方をしない人にも売れてほしい。

1980年、スイスの山中で航空機の墜落事故があり、200人以上の乗客が犠牲になった。そんな絶望的な状況でたった一人の幼児が無傷で生き残った。しかし、実はその飛行機には二人の幼児が搭乗していた。果たして、「奇跡の子」はそのどちらなのか。

18年間事件を追い続けた探偵の手記に導かれるまま、読者は、そして主人公マルクは物語の迷宮へと迷い込んでいく。まさに解決を宣言した矢先の探偵の死、「奇跡の子」の失踪と続発する謎謎謎……果たして迷宮に出口はあるのか、そして迷宮の深奥で待ちうける怪物の正体とは。

ミステリ的意外なオチを……と考えながら読むと、割と分かってしまうんだよなあ。分かったから愉しめないということはないんだが、そういう裏を裏をと覗き見ようとする読み方とはいささか相容れない、ドストレートなエンタメ小説なんよ。

三門優祐@ラバウル基地 (@m_youyou) 2015, 9月 1

 

 作者に鼻面掴まれて思う様ぐりぐりひっぱりまわされるのが好きな人、つまり本が好きな人にはたまらない傑作ですよ。オススメです。

 

今年はもう集英社が絶対勝利なんじゃないかなあという感じがしますね。

 

さて、9月の新刊について。

ハヤカワ・ミステリのジョナサン・ホルト『カルニヴィア3』は待望の完結編です。『2』であそこまでやってしまった作者が、主人公をどうやって救うのか、はたまたまったく救いはないのか、気になって仕方がない。

藤原編集室からの二冊、マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫)とロラック『曲がり角の死体』(創元推理文庫)は、古典ファンはマストですね。ロラックはそろそろ大きめのヒットを出してもらわないと(ホームランを打てる作風ではなさそう)。

エラリー・クイーン外典コレクション『チェスプレイヤーの密室』は、ジャック・ヴァンスによる贋作クイーン。こんなモノまで翻訳が出るとは、いよいよ出す本が無くなってきたのかなあ。評価の高い作品ですが、まったく予断を許さない感じですね。

アンネ・ホルト『ホテル1222』は、『そして誰もいなくなった』をオマージュしたという作品。『凍れる街』で高い実力を見せてくれた作者だけに期待したいところです。

新規参入のハーパーBOOKSは、ハーパー・コリンズ社の本を積極的に出して行く雰囲気か?ロマンスメインかと思いきや、結構ミステリエンタ寄りなのが嬉しいですね。ジャック・ソレン『ジョニー&ルー 掟破りの男たち』は泥棒アクション、ケアリー・ボールドウィン『ある男ダンテの告白』はサイコサスペンス。いずれも未紹介の作家で、愉しみです。

 

一月溜めると案外長くなるなあ、と。9月は積極的に読み更新していきましょう、と宣言しても守られなさそうですが……頑張ります。

  

声

 

  

ネメシス (上) 復讐の女神 (集英社文庫)

ネメシス (上) 復讐の女神 (集英社文庫)

 

  

ネメシス (下) 復讐の女神 (集英社文庫)

ネメシス (下) 復讐の女神 (集英社文庫)

 

  

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)