深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

社畜読書日録20170618(弘前旅情編②)


飲んで運動(徒歩)して疲れて寝て、起きたらもう朝ごはんの時間だったのでさっさと詰め込む。リンゴジュースが美味しかった(小並感)。
越前先生の講演会という選択肢もあったが、前日の古本屋チェックの際に、弘前駅の東側にブックオフが二軒あるのを見おぼえていた私は、無意識のうちに歩きだしていた。
正直なところ、レンタカーを借りてぐるっとブックオフを回り、然る後に青森駅まで車を転がすというルートが色々な意味で楽だった(弘前駅での電車待ちがない、とか)だろうと後知恵は出てくるが、その時は歩くことしか思いつかなかったのだった。アホですね~。結局いい天気の弘前駅の周りを、汗を流しながら7~8kmは歩いたのではないかと思う。成果としては、以下の通り。クレイスはマケプレ価がとんでもないことになっているシリーズ第一作。後輩に約束しているクレイスセットに追加できてよかった。

ロバート・クレイス『モンキーズ・レインコート』(新潮文庫)¥108
井沢元彦五つの首』(講談社文庫)¥108
佐野洋平凡な人の平凡な犯罪』(文春文庫)¥108

その後青森駅近くの謎のピラミッド「アスパム」でお土産を買いつつ、林語堂というなかなか大きな古書店にも入ってみたが、特に買うものはなし。

お土産を買うために時間を変えた帰りの新幹線の席が、越前先生の斜め前だったのには正直今回の旅行での一番の驚きでした。

 

帰りの新幹線ではマーガレット・ミラー『これよりさき怪物領域』(ハヤカワ・ミステリ)を読んだ。絶対に間違いのない本を読みたかったのだ。今となってはマケプレ価が高い高い。あらすじ感想は以下。

カリフォルニアのオズボーン農場から若き主ロバートの行方が知れなくなってからもう7か月が経つ。残された血痕や血の付いたナイフから、彼は死んでいるのではないかと考えられていたが、死体は見つからない。妻のデヴォンは、彼の死亡認定を受けるため裁判所に訴えを起こす。ロバートの人となりを、いなくなったあの日の出来事を口々に証言する人々。しかしその証言の中であぶり出されたロバートの姿は、事件の意味を少しずつ書き変えていき……

もはやここにはいない人」についての謎を描いた作品である。これはマーガレット・ミラーの描く物語としては特別目新しいものはない。しかし、淡々と証言が積み重ねられ、アクションもなければ探偵が皆を集めての大団円も行なわれない、ハヤカワ・ミステリの判型でわずかに200ページにも満たないこの作品は、人がある瞬間に「怪物領域」に入ってしまってもはや戻れないこと、その恐怖を/絶望を/そしてある意味での救済を読者にしっかりと刻み込んでしまう、一片の贅肉も持たない傑作である。

「ブルボンウィスキー(バーボン)」「手袋入れ(グラヴボックス)」など、今となっては古めかしい表現がかなりの頻度で登場するのにはいささか閉口した。改訳の上復刊文庫化(短編を追加してページ数を整えてもいい)といった機会を、どこかの出版社が掴んでくれないものか、と一応希望のみ述べておく。

社畜読書日録20170617(弘前旅情編①)

エラリー・クイーン『中途の家』読書会のために弘前に行った。
お前どんだけクイーン好きなんだという話だが、まあ理由は色々。

一つには主催の本木さんに返したい本(評論系同人誌)があったからだ。知る人ぞ知る硬派な未訳古典ミステリ研究誌『ROM』の「ユーモア・ミステリ号(ウッドハウスブランディングス城を襲う無法の嵐」の本邦初訳が載った号)」と、知っている人しか知らないレオ・ブルース専門研究誌『AUNT AULORA』の第三号(『ミンコット荘の死』の本邦初訳が載った号)の二冊だが、もはや入手不能というか、約10年前に貸してもらった時点で超レアな本だったので、延滞の詫びも兼ねて直接お返ししたかったんです。
あとは……まあ特に理由はないんだけど、これまでの人生で青森って上陸したことがなかったので、興味本位です。日程もちょうど空いてたんで、ライトな気持ちで参加しました。

朝8時過ぎ出発の新幹線に乗って、新青森の駅に到着したのが12時過ぎ。ここでいきなりオリジナルチャートを発動(お土産の下見)し、新青森エキナカをブラついていたら、接続待ちしていた奥羽本線に乗り遅れて30分休み。まさか昼日中に40分に一本しか来ないとか予想もしてねえよ……いえ、私が悪うございますがね……

弘前まで各駅停車でゴトゴト揺られること40分ほど、13時過ぎに弘前着。15時に待ち合わせしていたので、2時間弱空いている。となればすること古本屋巡りしかない!と飯を食いながら検索を始める。駅の西側(読書会会場はそちら側)に三軒ヒットした(もう一軒は遠すぎて無理)ので、サクサク移動開始。

一軒目は小山古書店。「入ります」とツイッターで呟くや、本木さんから「杉江さんも第一回読書会の時に入られましたね」と返信があり、早速暗雲が垂れこめ始める。猛者巡回済みか……何もないかも、とぼやきながら全体的に日焼けして白っぽい均一箱をばっさばっさと捲り散らす。そしたら意外と(失礼!)買う本があるじゃねーの。というか復刊の見込みがほぼなくて値上がりしている『梅田地下オデッセイ』が100円はかなり嬉しいぞ! 店の中もいい感じに狭くて埃っぽくて黒っぽくてしかもエンタメ(翻訳小説含む、ただし今回は買わず)がかなりあった。ポケミスも良くある番号ばかりだったがその辺にめっちゃ積んであるのが愛しい。(『迷蝶の島』は見つける度に保護していて、うちに二冊くらいダブり本が転がっているので、欲しい人がいたら進呈したいです)

結城昌治『不良少年』(中公文庫)\70
d泡坂妻夫『迷蝶の島』(文春文庫)\70
堀晃『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫JA)\100
藤原審爾赤い殺意』(集英社文庫)\50
夢野久作骸骨の黒穂』(角川文庫)\150

もう一軒、ないす堂というお店も行ったけど、特に買うものはなし。古本というよりはオタク向けショップという感じで、マンガ・プラモ・ゲーム(プレステ1、セガサターンメガドライヴなど懐かしのソフトが山盛りだった)・同人誌(東方が多かったけど、品ぞろえはなかなか。2008年~10年くらいのアイテムが多かったかな)が雑多に詰め込まれた環境で癒されました。

その後急いで待ち合わせの場所へ。本木さんと弘前在住のミステリファンの方三名ほどと読書会前のお茶会。このタイミングで本木さんに本を返して、さらに『アントニイ・バークリー書評集』の既刊をごっそり渡す。正直、第一巻はもう手元にも在庫極小なので、お渡しできたのは運が良かった。

読書会やその後の宴会の模様はきっとレポートが上がると思うので割愛。みなさん本当に熱心に読みこまれていて、『中途の家』の構成上緩いところをつつきまくり。「血が噴き出したならその血を使って字を書けばよかったのに」という指摘には蒙を開かれる思いでした。「ある理由により○○が使えず、また□□を見落としたから××を使わざるを得なかった。その行動が犯人を絞り込む根拠になる」というエラリーの論理的消し込みが、軽やかにぶっ飛ぶ瞬間よ。

散会後、ホテルに荷物を置いて一人「ギャレスのアジト」というビアバーを目指して歩き出す。東京でも出している店がある「BeEasyBrewing」の直営店である。しかしなんで飲み屋を国道沿いの、駅から20分の所につくるかね……住宅街って感じでもないし。薄暗めで木材をふんだんに使った内装がシック。土曜の夜ながら混み具合もいい感じで、飯酒ともに旨いし安い。弘前在住なら週三で通うんですけどねえ、と店の人に言いながら帰る。酒がしっかり入った状態で、ホテルまで20分の徒歩は結構キツイっす……で、即寝でした。

新幹線&電車移動がメチャ多いので、読書も捗る。今日は新刊の話題作、エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫を読んだ。
第二次世界大戦下のイギリスで「戦争協力体制」とは言いつつも、本書が基にした、「女性が飛行機を飛ばしたり(戦闘機や爆撃機の移送任務)、他色々な軍事的任務についていた歴史的事実」に、まず驚かざるを得ない。その上で、あるイギリス人女性がナチスドイツに協力する(という建前)で書いていく「物語」の豊饒なこと、これは当然高く評価されるべき。無論、甘い部分はある。なんでこんなことを書いているんだ、この人は、と思う部分もある。だが……これ以降は自分で読んでください。可能な限り事前情報は排して読むほうがいいけど、ある程度の予断も呑みこんで一気に納得させてくる畳みの力強さがあるので、「信頼できない語り手ものなんでしょ?」と決め込んで読まない、というのは割に勿体ないですぞ。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

 

 

社畜読書日録20170610-11

今日とて出社。ろくに生きていない。
退勤後、サクサクと池袋へ。ミステリとお酒大好きおじさん会に参加。
東口から北へ10分ほど歩いた先の「万事快調」はクラフトビールと日本酒のお店。

https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13149877/

ビールを飲むには肉料理が少なく、クラフトビールを求めて訪れた我々には、たとえちゃんぽんになろうとも選択の余地は少なかった。
むしろ焼酎のロックでやりたいクジラの竜田揚げ(血の味すごい)、フグの白子天ぷら(口の中でツルリと消える)の他、燻製やらモツ煮込みやらいただきました。素晴らしい。
二次会ということですぐ近くの「稲水器 あまてらす」に来店。和食日本酒の正統派のお店。

https://tabelog.com/tokyo/A1305/A130501/13131190/

先輩の紹介だが、何しろご飯が美味しい。日本酒パカパカ飲みながら食べるにはちょっともったいないか、似つかわしいかも段々分からなくなる酔った頭と舌で賞味。これは一軒目で行ってもよいかもですね。

そんなこんなで18時過ぎから23時近くまで旨い酒旨いご飯を頂いたので、財布は相応に軽くなり申した(空虚)

 

翌日は久々に「二日酔い」を体感。何にもする気が起きず、ダラダラと洋書を読むに努める。George Bellairs The Dead Shall Be Raised を2/5ほど。でも翻訳は……進んでないです……

社畜読書日録20170608

仕事上がりに渋谷のBunkamuraで「ソール・ライター展」を観覧。
色遣いがナビ派チックであるとか、構図がドガっぽい(浮世絵っぽいと言っても可)とか、どう考えても日本人に受けないはずのない展覧会だった。モノクロも大変クール。金曜夜ということでかなり混んでいたが、平日昼にもう一度見に行く機会を作るかどうかちと悩ましい。流れで図録(というか写真集)も購入。
『All About Saul Leiter ソール・ライターのすべて』(青幻舎)\2,700

その後、東急からちょい奥に入ったところの東京オルで北欧ビールを少し。

 

佐野洋『空翔ける娼婦』(文春文庫)を読んだ。

推理作家「佐野洋」が探偵役を務める短編小説6編を収めた短編集。見事名探偵役を果たすことはまずなく、どや顔で推理を披露しても恥を搔いたり、あるいはなんだか分からないうちに警察が事件を解決したり、とカッコ悪いところを晒してしまう。それが面白いということもなく、なんとなくグダグダな作品が多いのだが、表題作だけちょっと目が覚める出来。

スチュワーデス(この言い方も時代を感じる)がフライト先で乗客と寝るらしい、という噂話の真相を突き止めるべく、ちょっとワクワクしながら合図のスープを注文してみる佐野先生が可愛い(いや気持ち悪い)。ところが、同じく合図を送っていた男が札幌のホテルで殺されてしまった、というところで探偵出馬。事件の真相は……同じ短編集の中でネタ被りというのも残念だが、もうひとひねりあってそれが結構意外。ここで多重○○○○(文字数不問)をぶっこんでくるか~と感心してしまった。それだけです。 

All about Saul Leiter  ソール・ライターのすべて

All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて

 

社畜読書日録20170607

祖母の葬式明けで忌引き扱いだが、社畜根性を発揮し午後の打ち合わせだけ出る。「一時間で終わる」はずが二時間半になるのはもはや様式美。長引いたというより当初の目算が甘すぎるのであった。
帰りに紀伊國屋に寄って新刊確保。

ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)\886
スミス・ヘンダースン『われらの独立を記念し』(ハヤカワ・ミステリ)\2,484

 

で、ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)を読了。

事故が、犯罪が、天災が、戦争が、憎しみが、理不尽な苦しみが愛を蝕む。そんな時、人間に寄り添って生きる一頭の犬がいた。ギヴ。彼が共に歩んだ、あるいはひと時道を同じくした人々のエピソードを、ある若者が受け継ぎ、語り継いでいく。これは犬の、そしてアメリカに生きる人々の物語。

とても繊細な、それでいて感動的な物語である。家族だ愛だとクサいことばかり言うんじゃねえ、という人もいるかもしれないが、ボストン・テランがそうでなかったことがあるだろうか。いやない。出てよかった、読んでよかった作品だが、個人的にはパンク兄弟の兄貴に救いがなさ過ぎて悲しい。悔恨の涙の一滴でも流させてやればいいのに。いや、そういう人格でもないか。

その犬の歩むところ (文春文庫)

その犬の歩むところ (文春文庫)

 

社畜読書日録20170605-0606

またしばらく失踪してしまった。特に書くことがなかったとか言わない。

昨日から今日にかけて一気に古本を買ったので一応メモしておく。

佐野洋婦人科選手』(講談社文庫)\108
佐野洋空翔ける娼婦』(文春文庫)\108
佐野洋殺人書簡集』(徳間文庫)\108
笹沢左保溺れる女』(光文社文庫)\108
笹沢左保闇にもつれる』(祥伝社ノン・ポシェット)\108
dF・W・クロフツ二つの密室』(創元推理文庫・新装版)\108

エラリー・クイーンフランス白粉の秘密』(角川文庫)\108
dロバート・クレイス『ぬきさしならない依頼』(扶桑社ミステリー)\108
dロバート・クレイス『死者の河を渉る』(扶桑社ミステリー)\108
佐野洋歩き出した人形』(集英社文庫)\108
笹沢左保悪魔の部屋』(光文社文庫)\108
dデイヴィッド・ベニオフ99999』(新潮文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『硝煙に消える』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『友と別れた冬』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『俺たちの日』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
ハリイ・ケメルマン『土曜日ラビは空腹だった』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108

なぜ取りつかれたように佐野洋笹沢左保を買っているのかは自分でもよく分からない。佐野洋は未読の短編集が小山になっているのでそのうち何冊か読んでみたい。クレイスとペレケーノスは布教用。男たちの友情物語なので、絶対好きな人はいると思う。『99999』も人に薦めたいので買い直した。デイヴィッド・ベニオフは『卵をめぐる祖父の戦争』だけの作家ではないのだ。『卵をめぐる祖父の戦争』もまた、ぜひとも布教したい作品である。ビブリオバトルにも強そう(それはどうでもいい)。

エラリー・クイーン国名シリーズ再読も順次。読書会までに全作はとても無理だが、可能な範囲で進めたいところ。『オランダ靴の秘密』については、穴だらけの論拠でクイーンのロジックの薄い部分を弄りまわしてみた。(http://fusetter.com/tw/tKKGp#myself)ネタばれしかないので、未読の方は注意です。
今日は『ギリシア棺の秘密』を読み終わったが、クイーン二人が物語にいかに「ケレン」を持ちこんで、なおかつ自分たちの作風を壊さないように工夫していくその過程を改めて見直すことができた。『ギリシア棺』の場合、それは「若きエラリーの推理が必ずしも当を射ない」ことを活用して物語にうねりを作ろうとする姿勢そのものを指す。詳細はまたふせったーで書くかもしれません。次は多分『シャム双子の秘密』を読むはず。なぜ順番がバラバラかというと全部の本が手元にある訳ではないから。中古で何とか揃えたいんですけどね。全く見かけないのはなぜなのだろう。

んで、昨日買った笹沢左保『闇にもつれる』(祥伝社ノン・ポシェット)を漫然と読んだ。60年代の短編5編と80年代の短編2編を単行本から再録した、特段コンセプトもない作品集だが、個々の作品のクオリティは結構高い。ところで、この本を読んでいる時、ふと西澤保彦のことを考えた。笹沢左保が西澤に影響を与えているかどうかの評論って見たことがないと思うんですが、どこかにありますかね。閑話休題、以下ミニコメ。

「貰った女」:夫との間に子供が出来ず精子提供を受けて息子を産んだ女性が、「息子の父親」に当たる提供者への妄念に憑かれていく。終盤、異様に熱狂的な雰囲気がくるりと反転して、アッと言う間もなく幕が下りてしまう。読者の「期待」を巧みに操る好編。

「寒い過去の十字架」:水商売の女が住まわせている男は数年前に強盗傷害未遂で逮捕されていた。執行猶予が消えようとする今、近所で強盗傷害事件が発生した。果たして犯人は? 人それぞれに心に「虚無」を抱えて生きていることを描く。出来は普通。

「愛する流れの中に」:愛人に殴る蹴るの暴行を受け、気を失った女。目を覚ました彼女は愛人の用心棒に連れられるまま軽井沢の別荘地へと逃避行を図る。多くを語らない男が「理由」を一言告げて去った瞬間の女の心情の描き方が上手い。何が救いかなんてそれこそ人それぞれなのだ。

「闇にもつれる」:人気のない夜道で性的な暴行を受けた女性が、突然現れた目撃者によって人生を狂わされてしまう。表題作。読んでいてまったく不愉快な話なのだが、闇の中でもつれた因果を光の下に引きずり出す手際の巧みさ、タイミングの的確さで読ませる。

「帰らざる雲」:軽井沢の別荘地で雷に打たれて感電死した男。その死の真相を知る者はただ一人。本書にも何度も登場する類の因縁話だが、特に面白いところはない。軽井沢、良く出てきますね。

「消滅」:山陰の片田舎の旅館で働く無口な芸者の運命的出会いを描く短い作品。虚無を満たしてくれる人間がこの世界のどこかにいると信じなければやって行かれない……的な話で陳腐だが、それでもなおしっかり読ませるのは細かい描写の良さだろうか。

「都会の断絶」:先日愛人に捨てられた女が、バーで出会った美しい女に抱いた嫉妬は容易く殺意へと昇華される。50年前の作品ではあるが、まったく現代でも通用するイヤ~な小噺。

闇にもつれる (ノン・ポシェット)

闇にもつれる (ノン・ポシェット)

 

社畜読書日録20170601

たまの休みでアキバに出掛ける。
食い道楽気味の弟が発見した(が、一人では入りにくい)というイタリアン「Casa di SIVATA」にランチで入店。裏通りからさらに一つ曲がったところ、急な外階段を登った先のお店で、キャパ12人くらい。我々が入った時には女性客(と、そのお供の男性客)ばかりで、確かに男一人で初めて入るのは厳しめかも。

https://tabelog.com/imgview/original?id=r5398331159642


ランチメニューは、前菜【大盛サラダとパン(熱々フォカッチャ)】+パスタ。白(オイル/鶏レバーとズッキーニ)・赤(トマト/タラとタコ)・スペシャル(その日の食材)の三種のパスタから選択可。食後のコーヒー\200も入れて\1,200(税別)。値段はそれなりだが、味は抜群。サラダはおざなりでなくしっかり食前の胃を整えてくれるし、パンも旨い(自家製焼き立てパンを15年喰ってる人間の言うこと、信じて)。パスタはシェアして両方食べたが、特にトマトベースの魚介パスタは感動的に美味しかった。これはそのうちディナーも行くべしですね。トリッパとか羊ソーセージとか食べたい。その後、アキヨド上層のビアバーで少し飲んで解散。あそこは11時から飲めるのがいいよね。

 

その後いくらかお買い物。
エラリー・クイーンオランダ靴の秘密』(角川文庫)\510
江戸川乱歩編『世界傑作短編集⑤』(創元推理文庫)\108
dコリン・デクスター『ウッドストック行最終バス』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dコリン・デクスター『キドリントンから消えた娘』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
夏樹静子『暗い玄界灘』(ケイブンシャ文庫)\108
d大阪圭吉『とむらい機関車』(創元推理文庫)\108

デクスターはふと再読したくなったが実家から掘り出すのが面倒なので(古本買いの末路)。未読の学生にでも流すか。大阪圭吉はamazonマケプレも落ち着いてきたが相変わらず版元品切れなので布教用として押さえておく。『⑤』は傑作と名高い「黄色いなめくじ」が、「シャーロック・ホームズのライヴァル」シリーズの方には収録されていないので押さえる。『暗い玄界灘に』は「自薦傑作集」とのことで。『ゴールデン12』と比較したら面白そう。

FGOのイベントをポチポチやっていたら結局終わらなかったので、今日は感想なし。エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事④』を読み始めています。

社畜読書日録20170531

ギリギリ掲出。

昨日書いたとおり、一応来月の新刊予定を振り返る。

 

08/ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)
08/スミス・ヘンダースン『われらの独立を記念し』(ハヤカワ・ミステリ)
上/E・C・R・ロラック『殺しのディナーにご招待』(論創海外ミステリ)
13/M・ヨート&H・ローゼンフェルト白骨 犯罪心理捜査官セバスチャン 上下』(創元推理文庫
17/サビーン・ダラント『嘘つきポールの夏休み』(ハーパーBOOKS)
17/リサ・オドネル『神様も知らないこと』(ハーパーBOOKS)
17/カリン・スローター『サイレント 上下』(ハーパーBOOKS)
19/イアン・モーティマー『シェイクスピア時代のイギリス生活百科』(河出書房新社
22/E・O・キロヴィッツ『鏡の迷宮』(集英社文庫
22/ジーン・ウルフ『書架の探偵』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
22/サンドローネ・ダツィエーリ『死の天使ギルティネ 上下』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
26/C・デイリー・キング『鉄路のオベリスト』(論創海外ミステリ)
30/R・D・ウィングフィールド『フロスト始末 上下』(創元推理文庫
30/ジム・ケリー凍った夏』(創元推理文庫

 

個人的要注目作品が集中した月。
□テランはクライム・ストーリーとは一味違うようだが出るなら必ず買わなければならない(そして次の本の翻訳に弾みをつけたい)作家。前作『暴力の教義』が話題にならなかったのはいまいち納得が行っていないが、文春と新潮の宣伝の差だと思う。
□「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズは第三作。第一作でキャラクターを作り込み、第二作でそれをしっかり発展させたので、第三作の転がし方には大いに期待。
□『嘘つきポールの夏休み』は、お気楽人生を送る口から出まかせ男が、ふとしたことから地獄に向かって一直線に転がり落ちるサスペンス小説。こんなのつまらない訳ないんだよな。ハーパー・コリンズはヴィレッジブックスと同じくらいの頻度でいいので安打を打ち続けてほしい。
□『シェイクスピア時代の~』は、小説も書いている歴史学者の、イギリスではベストセラーになった一般書。でも諸兄、原題が The Time Traveler's Guide to Elizabethan England (『エリザベス朝イングランド 時間旅行手引き』)という時点で読みたくなりませんか?
□C・デイリー・キングは、カッパノベルズ版を持っているし読んだので買う気力が薄い(どうせ増えるのは注釈だけだし)が、一応載せておきます。併録の短編は、面白いんですかね。
□それより何より、ジム・ケリーが最重要。前作『逆さの骨』で大ホームランをかましながらもまたも三年待たされてしまったが、そのクオリティの高さは既にお墨付き。この夏のマストリードですね。

 

会社帰りに寄ったブックオフで、あるのは分かっていた本を確保。

アーネスト・ブラマ『マックス・カラドスの事件簿』(創元推理文庫)\108

 

今日読んだ本は、エラリー・クイーン『中途の家』(角川文庫)
弘前読書会課題図書。17日の読書会までに、あと何冊初期クイーンを読めるか。以下、省力気味のミニコメント。
・「読者への挑戦状」を設定する時に、最もやりやすいのが「消去法」。「犯人を指し示す直接的な証拠を指摘させる」よりも「犯人を絞り込むための条件を揃えさせる」方が、読者としても納得しやすい。(逆に言えば、「マッチの謎」「被害者の素姓の謎」など、本作に登場する一つひとつの謎においては、厳密性を期するために論理が複雑化しているが、辿りつくべき解答そのものはシンプルになる)
・「消去法」であるがために犯人を屈服させる方法が自白しかない、というツメの不徹底(集めた証拠において論理的に正しく見える限りは犯人、というゲーム性の中でのみの勝利)。
・女性、恋愛の書き方の拙劣さは、一向に改善されない(じゃあ男性は上手いのかというと……)。

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

 

社畜読書日録20170530

飽きずに紀伊國屋書店に通う私。
「ぼくのかんがえたさいきょうのミステリ作家(仮)フェア」を実見した。まっ、いいんじゃねぇの?別にどうでもいいんだが、こういうフェアで選書する時にいわゆる本格ミステリがほとんどで、また翻訳ミステリがさっぱり入らない辺りに何らかの限界を感じる。あと、フェアの内容をまとめたペーパー的なものが見当たらなかったのが残念。

もう今月買うものはない、と言いつつ見落としていた本を買う。

スキップ・ホランズワース『ミッドナイト・アサシン』(二見書房)\2,700

1885年のオースティンで殺人を繰り返したアメリカ史上初の連続殺人鬼についてのノンフィクション。殺人そのものだけでなく、それが触媒となって起こった狂乱についても書いているらしく興味深い。ニューヨークタイムスの書評(https://goo.gl/Rtz0XY)で触れられている、エリック・ラーソン悪魔と博覧会』(文藝春秋)も読んでみたくなる。

 

さて、今日読んだ本。G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち』創元推理文庫)。新訳で一応新刊扱い。昨日がチェスタトンの誕生日ということで、積んでいた本をなんとなく読み始めた。
チェスタトンは正直あまり読めていない。ブラウン神父物は一通り読んでいるはずだが、『ポンド氏の逆説』『奇商クラブ』『四人の申し分なき重罪人』『新ナポレオン奇譚』など、未読だらけ(論創の本はすべて読んでいるというねじれもあり)。本作も今回が初読。
「平凡人」の目線から見れば狂い捻じれた思考、目にも止まらぬ瑣事が、あえて“逆立ち”できる「詩人」の言葉によって解かれる。その最も分かりやすい(決して分かりやすくはない)例が「鱶の影」。「足跡のない殺人」へのアプローチとして、まるで意想外のところから入って異形の論理を抜けて意外にエレガントな出口に転がり出る面白さは追随を許さない。
また、「ガブリエル・ゲイルの犯罪」は、人がどのようにして「平凡人」からはみ出して「狂人」となるかを、「観念の犯罪」の理解者ガブリエル・ゲイルの思考に寄り添う形で描く雄編。作品集のベスト1と言って間違いないでしょう。傑作。 

詩人と狂人たち (創元推理文庫)

詩人と狂人たち (創元推理文庫)

 

社畜読書日録20170529

早速ネタ切れの感あり。この手の日記は、毎日書く気力もさることながら書くネタを探す努力・日常をエンタメにしていく精神なくしては続かぬことを痛感する。

 

来月の新刊ネタは31日に回すとして、さて今日のこと。日頃なく真面目に働いたので、かつやの期間限定の青ネギ山椒カツ丼が美味しかった(ただし味が濃い)くらいしか記憶がない……なんだこれは、たまげたなぁ。
帰りがけに新宿紀伊國屋書店本店を覗く。と言って、先日行ったばかりで買う本がある訳もないので即退出。「ぼくのかんがえたさいきょうのミステリ作家(仮)フェア」という頭の悪い(誉め言葉)名前のフェアを見たかったのだが、見つからず(後で一階でやっていることが判明)。ついでに『バイオーグ・トリニティ』を求めてコミック棟を彷徨うも在庫見当たらず。すぐ横のアニメイトで結局買う。ミス連で大学生に薦められて今更読み始めたが、大変素晴らしい作品で舞城ミステリやってますという感じ。詳しいレビューはまた別途。さらに隣のブックオフで「安く買ってすまない」顔で新刊落ちを買う。

アンソニーホロヴィッツ007 逆襲のトリガー』(KADOKAWA)\1410
オーガスト・ダーレスソーラー・ポンズの事件簿』(創元推理文庫)\108

ホロヴィッツシャーロック・ホームズものの『絹の家』『モリアーティ』で「原作愛+現代の読者も引っ張り回すセンス」を見せつけてきた作家なので、きっと楽しめることでしょう。ただし、当方「007」には興味なし。ディーヴァーの『白紙委任』も結局読まなかったんだよね。
シャーロック・ホームズのライヴァル」は未所持が多いので、これを機に集め始めてみようか(均一棚縛り)。

 

さて読書感想。今日は、ジャック・ヴァンススペース・オペラ
どう考えても「宇宙(スペース)で、歌劇(オペラ)だ!」というダジャレから生み出された連作短編集(に限りなく近い長編)。
宇宙探偵マグナス・リドルフ』しかり、『天界の眼』しかり、「ジャック・ヴァンス・トレジャリー」に収録された作品群は「ペテン師まかり通る」小説ばかりだが、本書も実質そのジャンルと言える。惑星ルナールから「第九歌劇団」を連れてきた(が、その行方を見失ってしまった)アドルフ・ゴンダー、あるいは当初は「音楽で異星人と情緒を共有することなど不可能」「『第九歌劇団』はフェイク」と言っていたにも関わらず、金が絡むや即デイム・イザベルの顧問に収まったバーナード・ビッケルなど、調子がいいにもほどがある彼らはまさにヴァンス・ワールドの(ちょっと間抜けな)ペテン師たちである。一見アドバンテージを握っている彼らが、結局(志だけは高い)デイム・イザベルに引きずり回されてしまうのは滑稽だ。なおかつ、その甥のロジャー・ウールや歌劇団のメンバーたちが巻き込まれるドタバタ騒ぎ、異星人たちの独特かつ作りこまれた描写は高レベルであり、同時に簡単に枠に収まらない独自性を保っており、これぞヴァンスだ、という所感。密航者である魅惑の美女マドック・ロズウィンを巡る全宇宙規模の謎も魅力的。選集の掉尾を飾るにふさわしい良作といえるだろう。大変おすすめ。
同時収録の中短編4編はいずれも面白いが、個人的には「海への贈り物」が白眉。異星に作られた、貴金属を収集する基地から乗組員が失踪するホラーから、異星知性体とのコミュニケーションを目指すSF、そして真実を暴き悪党へと迫るミステリ(しかも最後はちょっと泣ける)と、多様なエンタメ要素を惜しみなく注ぎ込んだ秀作だった。 

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)