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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

社畜読書日録20170617(弘前旅情編①)

エラリー・クイーン『中途の家』読書会のために弘前に行った。
お前どんだけクイーン好きなんだという話だが、まあ理由は色々。

一つには主催の本木さんに返したい本(評論系同人誌)があったからだ。知る人ぞ知る硬派な未訳古典ミステリ研究誌『ROM』の「ユーモア・ミステリ号(ウッドハウスブランディングス城を襲う無法の嵐」の本邦初訳が載った号)」と、知っている人しか知らないレオ・ブルース専門研究誌『AUNT AULORA』の第三号(『ミンコット荘の死』の本邦初訳が載った号)の二冊だが、もはや入手不能というか、約10年前に貸してもらった時点で超レアな本だったので、延滞の詫びも兼ねて直接お返ししたかったんです。
あとは……まあ特に理由はないんだけど、これまでの人生で青森って上陸したことがなかったので、興味本位です。日程もちょうど空いてたんで、ライトな気持ちで参加しました。

朝8時過ぎ出発の新幹線に乗って、新青森の駅に到着したのが12時過ぎ。ここでいきなりオリジナルチャートを発動(お土産の下見)し、新青森エキナカをブラついていたら、接続待ちしていた奥羽本線に乗り遅れて30分休み。まさか昼日中に40分に一本しか来ないとか予想もしてねえよ……いえ、私が悪うございますがね……

弘前まで各駅停車でゴトゴト揺られること40分ほど、13時過ぎに弘前着。15時に待ち合わせしていたので、2時間弱空いている。となればすること古本屋巡りしかない!と飯を食いながら検索を始める。駅の西側(読書会会場はそちら側)に三軒ヒットした(もう一軒は遠すぎて無理)ので、サクサク移動開始。

一軒目は小山古書店。「入ります」とツイッターで呟くや、本木さんから「杉江さんも第一回読書会の時に入られましたね」と返信があり、早速暗雲が垂れこめ始める。猛者巡回済みか……何もないかも、とぼやきながら全体的に日焼けして白っぽい均一箱をばっさばっさと捲り散らす。そしたら意外と(失礼!)買う本があるじゃねーの。というか復刊の見込みがほぼなくて値上がりしている『梅田地下オデッセイ』が100円はかなり嬉しいぞ! 店の中もいい感じに狭くて埃っぽくて黒っぽくてしかもエンタメ(翻訳小説含む、ただし今回は買わず)がかなりあった。ポケミスも良くある番号ばかりだったがその辺にめっちゃ積んであるのが愛しい。(『迷蝶の島』は見つける度に保護していて、うちに二冊くらいダブり本が転がっているので、欲しい人がいたら進呈したいです)

結城昌治『不良少年』(中公文庫)\70
d泡坂妻夫『迷蝶の島』(文春文庫)\70
堀晃『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫JA)\100
藤原審爾赤い殺意』(集英社文庫)\50
夢野久作骸骨の黒穂』(角川文庫)\150

もう一軒、ないす堂というお店も行ったけど、特に買うものはなし。古本というよりはオタク向けショップという感じで、マンガ・プラモ・ゲーム(プレステ1、セガサターンメガドライヴなど懐かしのソフトが山盛りだった)・同人誌(東方が多かったけど、品ぞろえはなかなか。2008年~10年くらいのアイテムが多かったかな)が雑多に詰め込まれた環境で癒されました。

その後急いで待ち合わせの場所へ。本木さんと弘前在住のミステリファンの方三名ほどと読書会前のお茶会。このタイミングで本木さんに本を返して、さらに『アントニイ・バークリー書評集』の既刊をごっそり渡す。正直、第一巻はもう手元にも在庫極小なので、お渡しできたのは運が良かった。

読書会やその後の宴会の模様はきっとレポートが上がると思うので割愛。みなさん本当に熱心に読みこまれていて、『中途の家』の構成上緩いところをつつきまくり。「血が噴き出したならその血を使って字を書けばよかったのに」という指摘には蒙を開かれる思いでした。「ある理由により○○が使えず、また□□を見落としたから××を使わざるを得なかった。その行動が犯人を絞り込む根拠になる」というエラリーの論理的消し込みが、軽やかにぶっ飛ぶ瞬間よ。

散会後、ホテルに荷物を置いて一人「ギャレスのアジト」というビアバーを目指して歩き出す。東京でも出している店がある「BeEasyBrewing」の直営店である。しかしなんで飲み屋を国道沿いの、駅から20分の所につくるかね……住宅街って感じでもないし。薄暗めで木材をふんだんに使った内装がシック。土曜の夜ながら混み具合もいい感じで、飯酒ともに旨いし安い。弘前在住なら週三で通うんですけどねえ、と店の人に言いながら帰る。酒がしっかり入った状態で、ホテルまで20分の徒歩は結構キツイっす……で、即寝でした。

新幹線&電車移動がメチャ多いので、読書も捗る。今日は新刊の話題作、エリザベス・ウェイン『コードネーム・ヴェリティ』(創元推理文庫を読んだ。
第二次世界大戦下のイギリスで「戦争協力体制」とは言いつつも、本書が基にした、「女性が飛行機を飛ばしたり(戦闘機や爆撃機の移送任務)、他色々な軍事的任務についていた歴史的事実」に、まず驚かざるを得ない。その上で、あるイギリス人女性がナチスドイツに協力する(という建前)で書いていく「物語」の豊饒なこと、これは当然高く評価されるべき。無論、甘い部分はある。なんでこんなことを書いているんだ、この人は、と思う部分もある。だが……これ以降は自分で読んでください。可能な限り事前情報は排して読むほうがいいけど、ある程度の予断も呑みこんで一気に納得させてくる畳みの力強さがあるので、「信頼できない語り手ものなんでしょ?」と決め込んで読まない、というのは割に勿体ないですぞ。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)