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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

2015年上半期とは何だったのか(その1)

数か月ぶりに浮上いたしました。ううむ、新刊レビューを順次書いていくという目標はいったいどこへやら。

復帰第一回ということで、昨年11月からの8カ月で読んだ新刊からこれは、というのを紹介しましょう。多分この辺から年度末ランキング投票で使う弾を選んでいくことに、ならざるを得ないのでは?という悲観的な読者。なお、順序は出版順です。

 

  • ウィリアム・ケント・クルーガー『ありふれた祈り』(ハヤカワ・ミステリ)

「あの夏は、ひとりの子供の死で始まった。」

40年前の夏、少年の人生は確かに変わった。嘘、裏切りを知った、成長の苦さと痛みを知った、そして一筋の奇跡と「ありふれた、一心の祈り」を知った。

2014年アメリカ探偵作家クラブ賞受賞。 

 数十年前に自分がかかわった事件の記憶を呼び戻しつつ、それを悔いたり嘆いたりするミステリはトマス・H・クック『緋色の記憶』以降爆発的に増えました(クック自身同趣向をそれ以前の『死の記憶』『夏草の記憶』で用いていますが。なお、『緋色の記憶』もアメリカ探偵作家クラブ賞(以降エドガー賞)受賞作です)。同じくエドガー賞を取ったジョー・R・ランズデール『ボトムス』もまたそうです。これらの作品は「少年と父」「少年と女性」他、多くのテーマを共有しています。

 『ありふれた祈り』がこれらの作品に対して卓越している点の一つは、「少年の成長」がしっかりと描かれている事だと思います。その契機としての奇跡、祈りまで含めて。とはいえ、本書は神の物語ではありません。あくまでも「神(あるいは現実)と向き合う人間」の物語として、これまでの作品で書いてきたテーマを延長した先に作者が辿りついた、圧倒的傑作です。

 

前作の事件を経て、再び捜査チームから放り出されてしまった迷惑傲慢男セバスチャン。だが、彼が以前逮捕した連続殺人犯ヒンデの犯行手口と酷似した殺人事件が発生する。自分は絶対役に立つと売り込みをかけるセバスチャンだったが、そこにはある理由があった。そして真犯人のおぞましい意図とは一体?

 ということで「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズ第二作でした。第一作もなかなか面白かったのですが、この第二作ではセバスチャンの過去(と言っても彼の場合、対人関係に興味がなさ過ぎて、どんな人間といつどの程度交際をもったか、という点すら限りなく曖昧という体たらくなのですが)をしっかり掘り返しつつ、彼の問題行動をさらに深化させています。セバスチャンのある人物への執着は第一作の衝撃の結末によるものなので、必ずシリーズ順に読むことをオススメします。

 キャラクター的に面白いのはセバスチャンばかりではありません。捜査チームの面々は、前作同様セバスチャンを憎んだり鬱陶しがったり、あるいは重宝したり、尊敬したりとその対応はてんでバラバラですが、そのあり方もさらに掘り下げられています。そして、恐るべき連続殺人者ヒンデ、彼の特殊なパーソナリティは、ここ数年で登場した「ありがちサイコ殺人鬼」の中でも、かなり際立ったもの。

 上下合わせて800ページ超と分厚い作品ですが、愉快なキャラクター小説として読み進むうちに、作者チームの仕掛けたトラップにまんまとはめられてしまうことは間違いなし。オススメの良作です。

 

今日は疲れたのでこの辺で。

 

 

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ありふれた祈り (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

 

犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯 上 (創元推理文庫)

犯罪心理捜査官セバスチャン 模倣犯 上 (創元推理文庫)

 

 

 

模倣犯〈下〉 (犯罪心理捜査官セバスチャン) (創元推理文庫)

模倣犯〈下〉 (犯罪心理捜査官セバスチャン) (創元推理文庫)