Henrietta Hamilton Answer in the Negative (1959) を読んだ。
Agora Books が始めた "Uncrowned Queens of Crime" というシリーズの二作目で、この2月に発売されたばかりである(一作目はヒルダ・ローレンス『雪の上の血』 Blood Upon the Snow, 1944)。
本作は、ジョニーとサリーのヘルダー夫妻が探偵役を務めるシリーズの第三作である(全四作)。
フリート街にある「国立新聞文書館」 (The National Press Archive) で、モーニングサイドという館員をターゲットにひどく幼稚な悪戯や冷やかしの手紙が繰り返される事態が発生する。その犯人を突き止めるように友人のトビーから依頼された夫妻は早速張り込み調査に乗り出すが、調査の翌朝、写真のネガが入った重たい箱で脳天を直撃されたモーニングサイドの死体が発見される。誰が、なぜ、いかにして、モーニングサイドを殺害したのだろうか。
かなり丁寧に作られた捜査小説である。容疑者候補一人一人の動きを聴取し、タイムテーブルを拵え、アリバイを確認していく。そしてその過程で、容疑者たちの奇妙な「事情」を明らかにして、物語を膨らませていく。全体的に淡々とした展開が続くが、時折、例えばサリー一人での追跡シーンを差し込んだりして山場を作っている※。
タイトルにある「ネガに隠された答え」が明らかになるのは物語が終盤に差し掛かってから。おぞましい本性が明らかにされてなお、犯人は最後までその正体を掴ませない……がその意外性は「そこに至る手掛かりがない」という点にかかっている(主人公たちもクライマックス直前まで気づけず、「偶然」手掛かりを手に入れるほど)ので、本格ミステリとしては買えない。
抜群に優秀な記者だったが上司と折り合いがつかず辞職、再就職先の文書館では暇を持て余しているモーニングサイドをはじめ、秘密を抱え脛に傷持つ奇矯な者たちが集うちょっと変わった業界を描こうという作者の意図は達成されているが、全体的に地味で、読む手が頻繁に止まってしまったことは付言しておくべきだろう。
なお、ジョニーは古書店を経営しているという設定だが、残念ながらこの作品ではその要素は生かされていない。巻末には第二作 Death at One Blow (1957) のプロローグが収録されているが、あるいはこの作品も復刊する予定があるのかもしれない。期待したいところである。
なお今回は Net Galley の先行無料購読を利用した。
※この「追跡」をはじめとしてサリーが単独行動をするシーンはいくつかあるが、ジョニーは毎回危険に遭わぬかと心配し、もう二度とこんなことをしないように注意する。コマンド部隊出身という前歴に納得する部分もあるが、ジョニーが妻を「庇護する」という感覚を持ち続けているというのは、80年代の3F小説を通過した読者には何とも古臭く映る。