別冊Re-ClaM第1巻は何とか出たものの、その後もRe-ClaM第3号の編集準備に追われたり、商業の解説原稿の準備が立て込んだり、三倍界王拳で長編翻訳の原稿を終わらせたりした三門です。ごきげんよう。
かくも状況が逼迫している時は、時間のなさに反比例して新刊読書も捗るもので、8月に出た新刊も大分消化できました。ツイッターでも感想を書いていたりしますが(そしてなぜか読書メーターを再開しましたが)、こちらでもざっと短評をまとめておこうかと思います。以下刊行順。
■アビール・ムカジー『カルカッタの殺人』(ハヤカワ・ミステリ):B-
人生多難なイギリス人警部と、同郷の者からは権力の犬と蔑まれ、イギリス人にはナチュラルに差別されるインド人刑事のバディ物……のエピソード0。ミステリとしては平凡だが、時代風俗を丁寧に書き込んでいるのは好感が持てる。
■クレイトン・ロースン『首のない女』(原書房):D
「幻の凡作」と言われていた作品が本当に凡作とは思わないじゃないですか。白須清美さんの読みやすい翻訳で入手困難作が再発されたことは評価できる。
■雷鈞『黄』(文藝春秋):C
序文の「叙述トリックが一つだけ含まれています」という意味深なフリが売りらしい。「ここが叙述トリックです」と作中人物が教えてくれるメタ的な滑稽さは買うが。とにかく叙述トリックが含まれていれば何だろうが評価する人向け。
■クリス・マクジョージ『名探偵の密室』(ハヤカワ・ミステリ):F
『SAW』などを参考に書いたと思われるデビュー作だが、サスペンスが絶無。探偵役である主人公がまったく同情できないクズであることが作者の中では斬新らしい( ´_ゝ`)フーン。「新本格に挑戦」という帯の惹句はさすがに噴飯ものだろう。
■ジェイン・ハーパー『潤みと翳り』(ハヤカワ・ミステリ文庫):B+
前作『渇きと偽り』と同様に、ぐちゃぐちゃに入り組んだ人間関係と「誰かのための」秘密で糸玉を捏ね上げ、最後にそれを「快刀乱麻」する作者の手腕が際立つ。あえて言えばバーバラ・ヴァイン系列の作家だと改めて納得できた。
■ボストン・テラン『ひとり旅立つ少年よ』(文春文庫):B
19世紀半ばのアメリカを舞台に、無力ではあれ無垢ではいられない少年が「己の信ずるもの」のために旅をするビルドゥングス・ロマン。ただの一人も端役のいない「人間劇場」を作り上げる作者の筆先は鋭く熱くそして時に優しい。
■スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』(文藝春秋):C+
いかにも文春らしいド派手な宣伝で売られている作品で、プロットは確かによく練られているし、終盤の展開は熱い。ただ、結局特殊ルールが具体的に説明されないので、作者にとって都合のいいところだけつまみ食いした感が読後も消えない。
■ピエール・ルメートル『わが母なるロージー』(文春文庫):B-
カミーユシリーズと世界大戦三部作のちょうど間に位置する中編。各作品の副読本としては興味深く、また酷薄さとジョークの隙間を狙った作者らしい黒さはよく出ている。が、単作としては踏み込みが甘く、最大限の評価をするには不足。
この中で絶対に読むべき作品は『潤みと翳り』くらいですかね。ボストン・テランは前作『その犬の歩むところ』(文春文庫)が好きな人は楽しめると思います。なお、この本が好きな人は同作者の『暴力の教義』(新潮文庫)が超おすすめなのでぜひ読んでください。出たのが7年前とか信じられないよ……
なお、評価点を具体化すると以下の通り。Wなんて出したくはないんやで。
W: Incremation F: Worthless E: Irrisitible D: Bad C: Not Good
C+: So So B-: Not Bad B: Feel Good B+: Excellent A: Year's Best
- 作者: ボストンテラン,Boston Teran,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/08/27
- メディア: 文庫
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