ぱっぱと片付けないと後がつかえているので、昨年分のお残しはあっさりと流していきましょうか。
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前作『燃える部屋』(講談社文庫)での規則逸脱が問題となり、「定年延長選択制度(DROP)」を続けることができなくなったハリー・ボッシュは、ついに市警を退職。古いバイクを修理する悠々自適の生活を始めようとしていた彼に、刑事弁護士のミッキー・ハラーから協力要請が入る。弁護士の調査員となることは警察組織全体への裏切り(Crossing)になると知りつつも、ボッシュは謎を追うことを止められない……果たして真実はいずれの側にあるのか?
本書の物語は、ボッシュと「どうも警察内部の人間らしい謎のコンビ」の二つの側から交互に描かれる。ジェフリー・ディーヴァーが得意とする「追いつ追われつのサスペンス構造」をボッシュものに持ち込んだとでもいうべきか。互いのミスにつけ込んで有利な立ち位置を窺いながら、互いに一歩一歩距離を詰めていくサスペンスは堂に入ったもので、小説巧者たる所以を見せつけている。警察の外側という立場から警察や市上層部の暗部を暴いていくボッシュの活躍が楽しいエンタメに満ちた良作。
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シェイン・クーン『謀略空港』(創元推理文庫):
ナイーヴだが抜群の腕前を持つ殺し屋ジョン・ラーゴが主人公の物語『インターンズ・ハンドブック』(扶桑社ミステリー)が、昨年話題になった作家の第三作(第二作は上記の続編)。911のテロで妹を亡くし、もう二度とこんな悲惨な事件は起こさせないと空港セキュリティの専門家となったケネディ。しかしある日、彼は突然CIAの幽霊機関「レッド・カーペット」にリクルートされる。史上最悪のテロを目論む巨悪から全米の空港を、そして人々を守るためにケネディは様々な技能を極めた仲間たちとともに立ち上がる。
驚くほどわかりやすい(そして残念ながらどうしようもなく退屈な)エンタメ作品。ン十年前のコミックから引き写してきたかのような安上がりのプロットとまるで奥行きのない雑なディテール。トンデモ話だが主人公のセンチメンタルな内面を書き込むことで絶妙な作品内リアリティを醸し出していた前作とはまるで比べ物にならない凡作。