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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

本を読んだら書く日記20181117|松本清張『花実のない森』

ついに本を買っていない日の日記を書く……と言いたいところだが、また買ってしまっている。自重したい。

土曜日と日曜日は朝一からの仕事で、しかも途中の休みも全然ないので、まったく本を読めなかった。唯一本を読んだのは土曜の朝一くらいだった。今日の本はそれですね。延々仕事仕事、しかも肉体労働頭脳労働というより足でウロウロするのが仕事(もうちょっとましな言い方はないのか)なので、疲労感が半端ではなかった。

土曜は少しましだったので、ブックオフへ。この日程のこの時間では(ある事情につき)何もないだろうと思っていたが、大きなネタにぶち当たってしまった。

イーサン・ケイニン『宮殿泥棒』(文春文庫)

カール・ハイアセン『顔を返せ 上下』(角川文庫)d

カール・ハイアセン『ストリップ・ティーズ 上下』(扶桑社ミステリー)d

カール・ハイアセン『虚しき楽園 上下』(扶桑社ミステリー)d

ということで、ハイアセンラッシュである。まとめてみることの少ない作家なので、驚いて108円の本は一通りダブりで拾ってしまった。この中だと『虚しき楽園』は何年か前に読んだような……ハイアセンは好きだが、初期作はあまり手を付けていないので、そのうち読もうと思う。フロリダ半島のトンデモない連中がトンデモない大騒ぎを巻き起こす痛快コメディだが、作品の軸になっているのは、元新聞記者の作者の怒り。愛するフロリダ半島とそこの人々を食い物にする「ネズミー・ワールド」(僕はまだ命が惜しい)や悪い奴らを笑いのめしながらボッコボコにしてしまう作風は、癖はものすごく強いが個人的には大好物。

 

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松本清張『花実のない森』(光文社文庫を読んだ。

去年新本格30周年」に対抗して新本格60周年」と題し松本清張の読書会をやったのだが、その際に参考図書として買いまくった100円の松本清張が収納の一大勢力になっているので、少しずつでも処分したいと手を付けた次第。代表作と言われることはない本だろうが、なかなか面白く読めた。

主人公の梅木隆介は変わりない日々の生活に倦んでいた。買ったばかりの車でのドライブ帰りに中年の冴えない男と美女の妙なカップルを乗せたことで彼は事件に巻き込まれていく。名も知らぬ美女の行方を追ううちに、彼は彼女が上流階級に連なる存在であることを知る。関係者を探る彼は、箱根の旅館近くで中年男が謎の怪死を遂げたことを知らされ驚愕する。

ストーカー男梅木の執念の追跡行を描く物語である。普通のサラリーマンである梅木が、「自分でも判然としない理由で」会社帰りに一軒一軒高級マンションを巡って彼女が出てこないか探ったり、恋人である女給の真弓に命じてホテルのメイドとして張込みをさせたりする(彼女は翻訳ミステリのファンだという設定がある)のは完全に異常だが、とりあえず作中それが問題になることは(あまり)ない。主人公が刑事や探偵ではないという倫理的に重要な点を除けば非常に丁寧な捜査小説で、「岩」という切符の切れ端を見て「これは岩国だ!」と瞬時に看破する以外は論理の不用意な飛躍もなく、お行儀のいい小品である。主人公がストーカーであるという点に目をつぶれば……

いや、目を背けてはいけない。本作はなかなか優れたストーカー小説なのだ。名前も知らない、妖しげな雰囲気を漂わせた美女を追うストーカーの、内面を彫り込むことなく行動のみでその異常さを匂わせていく清張の上手さには舌を巻く。それにしても、この作品は「婦人画報」に連載していたそうなのだが……問題にならなかったんですかね。

本作が映画やドラマになっていることは知らなかった(梅木は東山紀之だったそうな)。確かによく「松本清張ドラマ」ってやっているイメージだが、うちにはテレビを置いていないので特に最近のものについては詳しくは知らない。