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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

本を読んだら書く日記20181114|マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』途中

次第に「本を買ったら書く日記」になっているような……

振替休日のため、朝からだらだらと過ごしてしまう。マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』を読んでいたはずだが、うとうととして寝落ち。気が付くと12時という体たらく。早稲田の青空古本市に行くつもりだったような気がしたが、思うところあって上石神井へ。先日行った時にはチキンカレーが品切れだった「analog.」さんで、チキンカレーとジャパンカレーのあいがけをいただく(主目的)。もちろん美味しいのだが、チキンよりもジャパンの方が好みでしたね。。。

ついでにブックオフ。とはいえ、特に買うものも見つけられず。何も買わずに出るのは業腹なので、取り急ぎこんな本を確保。なぜ新刊時に買わなかったのか……

ジョン・コリア『予期せぬ結末1 ミッドナイト・ブルー』(扶桑社ミステリー)

それにしても、ブックオフで「将太の寿司」を見かけなくなった。twitter上のブームは一過性のものでなく本物なのかもしれんぞぉ?(いや、どう考えても一過性だが)

帰りはテクテク歩いていくことにする。徒歩1時間ほど。帰り道にまったく古本屋がない(知らない)ので、上井草でサンライズのビルを眺めたりする虚無的な徒歩旅行となったが、たまには悪くない。気になる寿司屋など見かけたので、次はこの店に行ってみたい。

古本ツアー・イン・ジャパンのサイトで知っていた鷺宮の古本屋「うつぎ書房」が開いていたので、初めて入店。「開いていた」といっても、16時過ぎの既に薄暗い時間にもかかわらず明かりはついておらず、店頭の均一が出ていたので判断できたレベルだが。「お前入ってくるなよ」オーラを露骨に醸す店主のお爺さんに「すいません、見るだけ見たら出ていきますから……」とテレパシーを飛ばしつつパッと見ていく。う~~~~ん、買うものがない。翻訳ミステリは絶無でした。

くさくさしたので、近場の町の古本屋さんで均一をピックアップ。網羅的な蔵書リストを作ったことで、ダブり本を引く可能性が激減したので、気楽に本が買えますね。(え?)

天藤真『鈍い球音』(創元推理文庫

北森鴻『緋友禅』(文春文庫)

天藤真は実家にあるはずだけど、今読む用のつもりです。つもり貯本。

 

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昨日twitterで書いた『探偵小説の黄金時代』の二箇所の誤訳について。間違いの内容と想定される経緯、その他諸々を以下に書き留めておく。なお、邦訳書では、140ページ前後が該当箇所となる。

1. Martin Edwards, The Golden Age of Murder, 2015 の第11章 Wistful Plans for Killing off Wives で、エドワーズはバークリーの中編のタイトルを "The Mystery of Horne's Corpse" と記した。これは正しくは "The Mystery of Horne's Copse" である。(典拠は、ロビンソンのビブリオおよび「補足2」で示したアンソロジー収録の実作の2点)

訳者は上記の誤植に気づかなかったようで、正しくは「ホーンの森の謎」と訳すべきであった箇所を「ホーンの死体の謎」と誤訳してしまった。(copse は、「雑木林」程度の小さな森を指す)

2. エドワーズは同中編にピーターズという detective が登場することを指摘。この名前は、A・D・ピーターズという彼の文芸エージェントにして、二番目の妻ヘレンの前夫から取ったものであるとエドワーズは書いている。

訳者はこの detective という単語を「探偵」と訳したが、本作はシェリンガムが探偵役を務める作品で、ピーターズは結末付近で紹介される「刑事」の一人にすぎない。これは実作を確認していれば防げた誤訳である。

補足1:ちなみに本作は、ロンドン近郊の領地に小さな屋敷を構える小貴族ヒュー・チャペルが、森の中で何度も「同一人の死体」を発見したと報告して正気を疑われるという物語であり、シェリンガムはチャペル家をめぐる邪悪なトリックを打破する。件のピーターズは、無実にもかかわらず殺人の容疑者となったチャペルが、シェリンガムの依頼で許嫁とともにイタリアに渡って証拠を探す際の護衛兼見張りとして、密かに尾行していた人物である。

1931年に地方新聞に連載され、近年再発見されたこの中編は、「自分の私生活を小説に仮託する男」というエドワーズが提示したバークリー像が非常によく表れた作品とも読める。シェリンガムの学友の一人だというチャペルは自身の理想の姿かもしれない。若く美しく勝気な許嫁シルヴィアはA・D・ピーターズの妻ヘレンかもしれない。二人の秘密旅行を尾行する刑事はピーターズかもしれない。大学でも軍隊でも不品行により落ちこぼれるいとこのフランクは、「フランシス」という名前からするとこちらも自分自身かもしれない(あるいは「優秀な」弟を貶める目的か?)。とすると、男を食い物にするフランクの妻ジョアンナは前妻マギーかもしれない(ジョアンナは「身持ちの悪い一族の出」と説明される、これは復讐か?)。うへぇ、バークリー本当に気持ち悪いな……

ここまでエドワーズが仔細に説明してくれていれば「誤った解釈」をする可能性もなかったと思うのだが、そこまでの紙幅はなかったらしい、という話。

補足2:なお、 "The Mystery of Horne's Copse" は、エドワーズが編纂した大英図書館のアンソロジー Murder at the Manor (2016) に収録されたので、簡単に読めるようになっている。訳者がこれを読んでくれていれば良かったのだが……是非もないネ?

蛇足:どうでもいいことだが、三門はこの中編を翻訳して「私訳:アントニイ・バークリー短編集」に収録しておりましてね……で、実は訳者の一人である森英俊氏にこの同人誌を進呈したんですよ、今年の春に……まあ、読んでないよなぁ。世界に100人といない入手者の皆様は、ぜひお読みいただければと思いました。

 

探偵小説の黄金時代

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