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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

本を読んだら書く日記20181112|戸川昌子『緋の堕胎』

特に日記に書くことがなくなりそうだったので、古本を買いに行った。

新橋のSL広場の古本市が初日だったので、終業後に参戦。18時に到着して、18時5分に雨に降られるトラブルはあったものの、古本屋さんたちの粘り強い対応で、なんとかチェックを続けることができた。黒っぽい本の名残のようなものを感じさせるものの、大した本はなかった(ちょっと興味を持って調べ始めた日影丈吉『恐怖博物誌』(東都書房の実物が見られたのはよかった。壊れた匣付きで3,000円はネタで買うほどでもないが)。交通費の元くらいは取りたいとポケミスを中心に抜いてみる。

松本清張『誤差』(光文社文庫\100

日影丈吉『非常階段』(徳間文庫)\300

ウインストン・グレアム『幕が下りてから』(ハヤカワ・ミステリ、箱あり)\300

シャルル・エクスブラヤ『死体をどうぞ』(ハヤカワ・ミステリ)\200

『死体をどうぞ』200円は隙だらけ。ハリイ・ケメルマン『木曜日ラビは外出した』(ハヤカワ・ミステリ)\1500は買えばよかったかも。まあそのうちもっと安く見かけそうな気もするが。

 

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戸川昌子『緋の堕胎』ちくま文庫)を読んだ。

中年女の(自覚的に)薄汚したセックス妄想が塗り重ねられた非常に悪趣味な本。みるみるエスカレートしていく妄念が一線を越えた瞬間に奇跡的な輝きを放ち始めることがあり、それはこの作家にしか書きえないものかもしれない。ベストは「塩の羊」、「蜘蛛の巣の中で」、「降霊のとき」。以下各作品紹介。

・「緋の堕胎」:妊娠7か月を超える妊婦の堕胎を生業にする医師が、どこまで追い詰められても自分の評判を気にしているみっともなさ、生き汚さが凄い。ある種の尊さを感じる。

・「嗤う衝立」:衝立の向こうで宗教団体の女たちからセックス奉仕を受ける重傷者を見て悶絶するオッサンの話。意外な目的が明らかになるオチがなければもっとよかったのだが。

・「黄色い吸血鬼」:精神薄弱の青年が「吸血鬼」に囚われ、定期的に血を吸われる話。寓話的な世界観がある瞬間に現実に戻る。戻し方があっさりしすぎていて、カタルシスもくそもないのは残念。

「降霊のとき」霊媒の助手をしている女が、乞われて霊媒の真似をしたら出来てしまった、というところから始まる奇譚。オッサンの霊に取り憑かれた(という体で)主人公がレズセックスを繰り返してしまうという物語の壊れっぷりがすごい。なぜか上手い具合にオチがつくが、若干取ってつけた感が否めない。

・「誘惑者」:吸血鬼ネタ②。これといった美点が見当たらない。

「塩の羊」モン・サン・ミッシェルを思わせる海辺の修道院で展開される美しくも歪み切った物語。現実と妄想の区別がゆるやかに溶けていき、どこからどこまでを信じて良いのか分からなくなる。羊の皮を被った女が海に消えていくシークエンスは不気味さと美しさを兼ね備えた凄まじい代物。

・「人魚姦図」:青年が水の中で人魚を追いかける描写など、筆の冴えを感じさせるシーンが多い。「意外さを感じろ」と押しつけられる結末は好きになれないが……

「蜘蛛の巣の中で」:子守を仕事にする中年女のセックス妄想が炸裂。ベタベタとした一人語りの不愉快さは特筆もの。蜘蛛の巣に絡めとられるように堕ちていくのは、女かあるいは読み手の我々か。

・「ブラック・ハネムーン」:東南アジアの島で現地人に輪姦される女の話。もう何が何やらだが、オチまで来て「勝手にしてください」という気持ちになってしまった。

 

緋の堕胎 (ちくま文庫)

緋の堕胎 (ちくま文庫)