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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

本を読んだら書く日記20181110|パット・マガー『不条理な殺人』

翻訳ミステリー大賞シンジケートの千葉読書会(課題本:キャロル・オコンネル『氷の天使』)に参加した……が、時をしばし巻き戻す。

起きたのは午前3時(え?)。到底朝とは言えない時間だが起きてしまったものはしょうがないので、(読書会の本も読まずに)創元推理文庫の新刊であるパット・マガー『不条理な殺人』を読み進める。300ページくらいの本なのにいつまで経っても読み終わらないことに不条理を感じつつ、朝を迎える。

午前中は、今日封切りの映画「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」を観に行った。もちろん読書会の本はほとんど読んでいない。タイミングを逸して朝ごはんを食べ損ねたので、映画館の近くのコンビニでおにぎりを買って食べる。一緒に映画館で飲む酒を調達。朝9時にコンビニでビールとつまみを買い込んでいるオッサンはきっと悲しく映ったことと思う。

「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」について。シナリオは並だが、音楽は素晴らしかった。アンセル・エルゴートは(「クリミナル・タウン」は未見だが)「ベイビー・ドライバー」出演時と同様、ヘナチョコな犯罪者をやらせると妙に似合ってしまっている。彼が演じるジョー・ハントの綺麗な乳首が二回ほど見られるが、ヒロインは全力で隠されていた。ヒロインよりも語り手(ジョーの親友を名乗る軽薄男)よりもストーリーを食っているのが、ケヴィン・スペイシー演じるロン・ケヴィン。「詐欺師(ハスラー)」を自称する彼が、ジョーの計画を支援するように見えていつ腹を喰い破るか、ジョーがいかなる間抜け面を晒すかが本作の見どころとなっている。「実話に寄せた話」という枠をブッチ切れなかったのは残念だが、劇場で見ても損はないと思う。

さて、映画が終わって12時15分。昼飯を食べた後、新宿を出たのが13時。読書会は16時開始。それまでに100ページ読んだ課題本を読み切れるか……が問題だったが、結論から言うと、タイムアウト。まあ、千葉で「ビア・オクロック」に行き、二杯ビールを飲んだのが敗因だったような気がしなくもないが……

読書会自体はそのうちレポが上がるだろうから、多くは語らず。翻訳者の柿沼瑛子先生から、「早く『ウィンター家の少女』を読みなさいね。きっとあなた好きだから」とガッツリ推されてしまった。うーんそのうち読みます。少しでも還元しようと担いでいった不要新刊は半分くらい貰ってもらえた。私は猟奇の鉄人氏のダブり本コーナーから何冊かいただく。

エラリー・クイーン編『完全犯罪大百科 上下』創元推理文庫

エラリー・クイーン編『犯罪の中のレディたち 上下』創元推理文庫

コーネル・ウールリッチ『恐怖の冥路』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

その後、二次会でチーズ専門店に移動。お洒落な店だったが微妙に食い足りず……チーズって妙にお腹いっぱいになった気になってしまうのだよな。パット・マガー『七人のおば』の布教をしたら貰ってくれた大学生がいて、よかったなあという気持ちになりました。

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パット・マガー『不条理な殺人』創元推理文庫)を読んだ。

義理の息子ケニーが書いた劇のタイトルが『ハムレット』を思わせる物であったため、10数年前に起こった実の父親レックスの死が本当は殺人事件で、彼はそれを目撃したのではないか(当時は自殺か事故と考えられていた)という疑いを抱いた義理の父親マークがそれを確かめるべく明らかに不慣れな現代劇に出演するという話。

ミステリとしてのポイントが絞り込まれるまでが非常に長いのはストレスフル。といっても、そのポイントを絞らせないことが作者の狙いだろうが。読み返してみると、実はこの作品は1930年代の某作に始まるあるジャンルに属していたことが分かるが、作者はそれを何とか隠そうとしていて、後半のある意外な展開(作中人物にとっての、だが)によって初めて、前半から播かれてきた疑惑の種が芽を吹き始めるように仕向けている。とはいえ、ジャンル的な挑戦が必ずしも良作を生み出してきた訳ではないことは、御承知の通り。本作のプロットは、残念ながら300ページの長編を支えられるものではない。

作中展開される不条理劇は「息子と父親の世代的/感情的断絶」を表しつつ、同時にそれに対して父親が働きかけることで絆が新たに生まれることを表現しようとしたもの(それは成長しない母親サヴァンナとの本来あると思われていた絆の断絶をも表している)だが、晩年のマガーが筆先をそういった方向に展開したのは意外だった(マガーの資質は明らかに、マークとサヴァンナが出演し続けてきた室内で展開されるユーモラスなロマンス(とそこに生じるサスペンス)だったのではないか)。

正直、これを読むなら論創で出た『死の実況放送をお茶の間へ』の方が楽しめるのではないか、と思ってしまった。

 

不条理な殺人 (創元推理文庫)

不条理な殺人 (創元推理文庫)

 
死の実況放送をお茶の間へ (論創海外ミステリ215)

死の実況放送をお茶の間へ (論創海外ミステリ215)