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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

2017年新刊回顧②

2017年新刊回顧第2回です。詳細は以下の第1回の冒頭をご覧ください。

今回は、15位から11位までを見ていきます。

 

15位:ラグナル・ヨナソン雪盲』(小学館文庫)

雪盲?SNOW BLIND?

雪盲?SNOW BLIND?

 

北欧ミステリの変わり種。アイスランドの片田舎の警察に就職してしまった主人公アリ=ソウルが出会う様々な事件、そして人々を描く作品です。

雪の中で倒れた女、強盗に襲われた老女、そして劇場で殺された嫌われ者の男。描かれる三つの事件を一つに結びつけるヒントは一冊の本に。細かに配された伏線をしっかりと回収しつつ、まるでクリスティーのように「見えない、あからさまな手がかり」で読者を驚かせる謎解きミステリの佳品。次の翻訳はシリーズ第5作だそうですが、大切に育ててほしいシリーズです。

 

14位:オマル・エル=アッカドアメリカン・ウォー』(新潮文庫

アメリカン・ウォー(上) (新潮文庫)

アメリカン・ウォー(上) (新潮文庫)

 
アメリカン・ウォー(下) (新潮文庫)

アメリカン・ウォー(下) (新潮文庫)

 

22世紀の歴史家が、21世紀末にアメリカ合衆国で起こった「第二次南北戦争」を、ある人物に焦点を当てて辿って行くという架空歴史ものです。

この「第二次南北戦争」は決して絵空事ではなく、現在のアメリカの状況に照らしても「十分にありうべき未来の一つ」として捉えることが出来るifとなっています。その意味で本書は現実に対する警世の書ですが、同時に人間がありのまま生き、そして何の意味もなく死んでいく世界を見つめた、生命賛歌の書でもあります。大変面白い。

 

13位:アーナルデュル・インドリダソン湖の男』(東京創元社

湖の男

湖の男

 

アイスランドを代表するミステリ作家のシリーズ第六作(翻訳は四冊目)。地殻変動により湖の底から発見された骸骨と、謎の「盗聴器」を巡る物語です。

本書で描かれるのは、冷戦下のヨーロッパにおけるアイスランドの立ち位置と、若者たちの踏み躙られた人生です。社会主義の理念に情熱を傾ける彼らが突きつけられる失望と怒りは、何十年経とうが風化し消え去ることはないという事実を否応なく思い出させてくれる。圧倒的なリアリティで迫る本書は、傑作『』(東京創元社)と比べても遜色のない、稠密に「思い」描いた作品です。

 

12位:ロバート・クレイス約束』(創元推理文庫

約束 (創元推理文庫)

約束 (創元推理文庫)

 

本作は、『サンセット大通りの疑惑』(扶桑社ミステリー)から実に17年ぶり、パイクメインのスピンアウト作品『天使の護衛』(RHブックス・プラス)から見ても6年ぶりに刊行された、エルヴィス・コール&ジョー・パイクシリーズの第16作です。

コールとパイクの掛け合いは20年越しでもぶれず歪まず。本書ではそこに、パイクの傭兵時代の仲間で、情に厚いがそれを恥じている「含羞の男」男ストーンが絡み、実に安心して読めるエンタメに仕上がっています。『容疑者』(創元推理文庫)でメインを張った警察犬マギーと相棒スコットのコンビ(と愛すべき教官殿)もサブキャラとして登場し、ファンを楽しませてくれます。是非、シリーズ過去作も紹介してほしい!

 

11位:ボストン・テランその犬の歩むところ』(文春文庫)

その犬の歩むところ (文春文庫)

その犬の歩むところ (文春文庫)

 

本書についてはこちらでも言及しました。端的に言って本書は、(既訳の『神は銃弾』など以上に)まったく好みが割れる作品だと思います。ごく普通の犬であるはずのギヴが辿った数奇な運命と奇蹟としか言いようのない出会いとを、イラクの帰還兵である青年が「語り継ぐ」という本書の形式は、イエスの生涯や言行を「新約聖書」という形で残していったのにも近似する、「アメリカの神話」であるからです。

イラク戦争911テロ、カタリーナ台風。21世紀に入ってからアメリカ合衆国の人々は大きな喪失をいくつも味わいました。この物語を通じて作者が優しく触れていくのはそういった疵の数々です。決して忘れてはならない、しかしいずれ癒されるべき痛みをギヴが受けた苦しみに重ね、そして感動へと昇華する物語は、どうしようもなく陳腐で、ある意味では傲慢です。しかし、作者の手筋はあくまでも真摯であり、私にとっては乾いた喉を潤す清水のように滲みるものでした。読まれてほしい、でも受け入れられないのも理解できる。そんな一作。

 

思い入れのせいか、段々文章が長くなってきますね。無理からぬことですが。次回は10位から6位までを掲出します。来週のどこかで投稿出来ればと思いますので、少々お待ちください。