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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

2017年新刊回顧①

いよいよ2017年も終わってしまいましたね。正直なところ主にスマホゲーの影響で、今年は全然新刊が読めておらず、なんとなく心苦しい気持ちです。翻訳ミステリは50冊前後ですね。これほど読まなかったのは十年ぶりくらいかも。

そんな少ない冊数でも、「このミステリーがすごい!」他のランキングに投票する本は選ばなければなりません。そして選んだら選んだで、「これしか選べなかった」「しかもコメントがこれしか書けなくて何一つ表現できない」と苦悩することしきり。

ということで、「このミステリーがすごい!」基準(=面白かったかどうかの一点)で20位まで選び、ちょいちょいコメントを補足することにしました。と言っても、下位から埋めていくので、自分が投票したところまで辿りつくのはまだまだ先になりますが。なお、本ブログ内で触れた内容と重複する可能性もありますが、お許しください!

 

20位:サビーン・ダラント『嘘つきポールの夏休み』(ハーパーBOOKS)

嘘つきポールの夏休み (ハーパーBOOKS)

嘘つきポールの夏休み (ハーパーBOOKS)

 

夏の大当たり本です。新幹線出張でお世話になりました。それにしても、このレベルのお気に入り本でも20位なのか。今年の新刊のレベルの高さが分かりますね。

主人公のポールが獄中で書いている手記、という体裁で物語が進んでいきます。自らのクズぶりをひけらかす異常者の語りにつられて読み切った時には、実にゲンナリした表情になること間違いなし。変な期待をあっさりと裏切る、軽妙な良作。

 

19位:エーネ・リール『樹脂』(ハヤカワ・ミステリ)

樹脂 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

樹脂 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

2016年にガラスの鍵賞を受賞した、今時びっくりするほど薄手な北欧ミステリの秀作。今年はその前年に受賞したトマス・リュダール『楽園の世捨て人』も出ましたね。

大切なものを何一つ失いたくない、という考えに取りつかれてしまった男の物語です。琥珀に閉じ込められた虫のように、読者もまた彼の脳内に閉じ込められてしまうかのような独特の読中感が凄絶です。これしかないという結末にピタリと収まるのも高得点。

 

18位:エリス・ピーターズ『雪と毒杯』創元推理文庫

雪と毒杯 (創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

 

歴史ミステリの名手、エリス・ピーターズの初期作にして、謎解きミステリの文法に忠実な良作。雪に閉じ込められたホテルといういかにもな状況を上手く使っています。

本書の特徴はむしろ、その香気高いロマンス小説要素の「ねじれ」にあります。自分が好きになった男のためにどこまでも身を張れるヒロインは、むしろ主人公気質のようにも。大団円で明らかにされる謎解きそのものは緩めですが、楽しく読める作品です。

 

17位:デイヴィッド・ドゥカヴニー『くそったれバッキー・デント』小学館文庫)

くそったれバッキー・デント (小学館文庫)

くそったれバッキー・デント (小学館文庫)

 

「新刊を読む」ことを自らに課していなければ絶対に巡りあえない本が例年何冊かありますが、これもその一つでした。作者は「Xファイル」のモルダー捜査官役の人です。

弱小球団ボストン・レッドソックスの大ファンである父親と、そのダメ息子の物語。肺ガンで死期間近の父にレッドソックスの勝利を捧げたい息子が奔走する物語と脇筋が見事に照応し合い、圧倒的なリーダビリティとして昇華されています。必読の一冊。

 

16位:ローリー・ロイ『地中の記憶』(ハヤカワ・ミステリ)

地中の記憶 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

地中の記憶 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

2016年エドガー賞受賞作。前二作の時点で分かっていましたが、やはりこの作家は地力が違います。地に足のついた物語を書いてここまで読ませる作家はなかなかいません。

「地下に埋められたものにまつわる想念が、地上に対して影響を与える」という考え方に貫かれた本作は、16年の年月を挟んで「何が起こったのか」「何が起ころうとしているのか」という謎が極点に向かって緩やかに崩壊していきます。一見地味ですが、読者の脳裏に取りついて離れなくなる傑作だと思います。ただし、今年基準だと16位。

 

本当に何度でも書きますが、今年は中堅どころのレベルが高すぎる。上位五冊はあっという間に決まりましたが、それ以下が完全に団子状態です。嬉しい悲鳴! 次回もできるだけ早めにアップする予定です。少々お待ちください。(5位以上はさすがにこのミス発売後にしておくかな……)