ロバート・ゴダード『謀略の都』(2013)を読みました。
告白すると、私はゴダードのよき読者ではありません。初期の作品は何作か読みましたが、近年の作品については、たまたま図書館に寄った時に見かければ「数合わせ」という不純きわまる動機で読む(新刊書店で買うことはない)程度。ファンの人には申し訳ない。
ゴダードの最大の強みは「語り口」にある、と思っています。読者を「隠された真実を探究する旅」に巧みに引きずり込む話術は間違いなく一級品です。ただ、そこに力点が置かれているために、「重要なのは読者を引きずり回すことで、真相の意外性にはそれほど注力していない」のか?と私などは思い込んでいます。(※1)
閑話休題。この『謀略の都』は、第一次世界大戦終戦直後である1919年4月のパリを舞台に、外交官だった父親が「屋根から墜落」という不可解な状況で死んだことに不審を覚えて調査を始めたことから陰謀劇へと巻き込まれていく青年、ジェイムズ・マクステッド(通称マックス)の冒険を描くスリラー小説三部作の第一部です。
父親がその住居に足繁く通っていたという未亡人、秘密警察の非協力的な上級捜査官、一癖も二癖もある世界各国の外交官たち、怪しげな米国人情報提供業者、ロシアからの亡命者をまとめる組織のボスとその姪、そしてドイツ帝国の伝説のスパイマスター……マックスは父の残したわずかな情報を手掛かりに彼らの話を聞いて回り、父の秘密に少しずつ接近していきます。果たして真実は一体?
これで約750ページの小説を持たせるのだから、ゴダードの語りは極まっています。「信頼できると思った人物があっさり裏切り、怪しげな人物が一番信頼できる、こともある」ゴダードの常道プロットをフル回転させ、渋る口を時に巧みに時に無理やり開かせ、そし明らかになった真相は……え?こんなもんか?というほどあっさりしたもの。むしろその後のあっけらかんと進む第二部の方向性の方がよほど意外でした。「ル・カレばりの謀略スパイスリラー」と言うよりは、むしろ古き良き「外套と短剣」を連想させられました。
この三部作の翻訳はなんと今年中に完結するんだそうですが、おそらく第二部、第三部でさらに衝撃の真実(マックスの出生の秘密?)が明らかになっていくんじゃないかな?かな? 今年はあと1500ページ(推定)、ゴダードとお付き合いするのかと思うと、オラわくわくしてきたぞ?(※2)
※1:作品のスケールの大きさと主人公の物語の卑小さが見事に噛み合った初期作『蒼穹のかなたへ』(1990)は、個人的オールタイムベストに入る作品なんですけどね。
※2:つまり、講談社文庫から出る翻訳ものの枠が二つ減るってことDEATHよね!!!! 辛い!!!!
評価:(将来の期待を込めて)★★★☆☆