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三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

【第12便】2012年2月新刊レビュー(国内編)

2012年2月の新刊レビューをお送りします。まずは国内から。



相沢沙呼『マツリカ・マジョルカ』(角川書店

マツリカ・マジョルカ

マツリカ・マジョルカ

 廃墟ビルに住みつき望遠鏡で学校を眺めている変人マツリカと彼女に柴犬呼ばわりされこき使われる内気な少年柴山。本作は彼らの活躍する4編からなる短編集だ。謎のスタイルは「校庭を駆ける原始人」「裏山で殺された片目の少女の幽霊」などといった、一見益体もない子どものうわさ話に現実的な説明をつけるというもの。いずれも予想外の真相でもなく凝りに凝った伏線がどうこうというものでもないが、起こった出来事が当事者にもたらしたであろう感情について読者にも思いを馳せさせようとしているのは、青春小説とミステリをうまく絡めていこうという気概が感じられて好ましい。
 また青春ミステリといえばコミカルなキャラクターがつきものの昨今であるが、本作もS女とM男のコンビはしっかり目立っている。特に少女の命令で話下手にも関わらず人に聞き込みをするはめになる「モジモジ捜査」には新鮮な面白さがある。一方、肝心の彼らの関係性やマツリカという少女の背景に関しては多くを語らず仄めかす程度で、このようにクセのあるキャラクターを書かずして描いている部分こそ上手さを感じさせるところだ。例えば少年が「またいじめられるかも」と苦悶する内心は再三描かれるものの、実際の掛け合いではそういった要素は限定的で会話内容は本筋からあまり外れない。美少女にいじめられる少年というコテコテの関係に関してはそればっかり言わなくても分かるよね? といった塩梅であり、話は話でテンポ良く進めている。奇妙な設定を書き込むのではなく、設定はあくまで背景としその上で視点人物の少年が何を悩んでどうしていくのかについての小説が作られているのだ。本作はキャラクターを楽しむのにも充分だろうが、それ一辺倒ではないその先の上手さが見られる点に著者の地力を感じた。(てつろう)@

荒山徹『柳生黙示録』(朝日新聞出版社)

柳生黙示録

柳生黙示録

 柳生十兵衛が史上最悪のキリシタン一揆、島原天草の乱に関わっていたら……という仮定の元書かれた小説として、第一に山田風太郎魔界転生』(角川文庫)が挙がってくるのは疑いを得ない。本作『柳生黙示録』は、二度に渡って映画化されたかの作品を本歌取りする形で書かれた非常に挑戦的な作品である。
 オランダの貿易船によって、平戸に運び込まれた「慎重な政治的判断を要する物件」。江戸への輸送にあたって、荷物をキリシタンから守るよう命じられた柳生一族は、巌流島を訪れていた十兵衛を先兵として差し向ける。しかし、キリシタン妖術の使い手が次々襲来し、十兵衛と仲間たちは危地に追い込まれる。
 雑誌連載が元になっているためか、「引きからの意外な人物登場」という展開が多く、必然無理筋も少なくない。だが、史実を積み重ねて強固な背景を作っているため、相当の無理も呑み込めてしまう。これは、歴史的リアリティと小説的リアリティ(=作者の妄想)とが見事に結びついているが故。非常に巧みな手腕である。
 にしても、キリシタン妖術はとんでもない。死者蘇生→不死化、空中浮遊、口から胃酸を吹き出す、DTバリアー……如何に十兵衛とはいえ勝てる訳がない……いや、勝つ。そして無事に帰る。だって十兵衛だから。大ピンチからの一発逆転というラストの衝撃展開はまず予想不可能な代物。酷い、いや凄すぎるので、ぜひ読んで確認してみて欲しい。聞いた話では荒山作品としてはこれでもまだ穏当な部類に入るのだとか。次読むのが怖いw(三門) @