【第6便】2011年12月新刊レビュー(国内編)
おばんです。
こまめに更新をしたいけれども、夜の寒さに負けてついつい布団に潜ってしまう今日この頃です。
2011年12月の新刊レビューをお送りします。今回は国内四本、翻訳六本となります。では国内からどうぞ。
- 作者: 上田早夕里,中村豪志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/12/08
- メディア: 文庫
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たとえば『華竜』と世界を同じくする表題作では、大空に恋焦がれ、ハンググライダーを求めて都会へ出てきた少年の成長譚が描かれる。ここに出てくる「技術」とは夢を叶える「技術」であり、希望に満ちた目標だ。だが、他者と出会い、夢の達成に込められる意味は進行するにつれ、少しづつ変わっていく。そんな少年の成長過程が繊細に、丹念に記録される。技術、人間、小説のいずれに対しても一切の妥協を許さない堅牢な姿勢は、書きおろし作「幻のクロノメーター」でより高度な完成をみる。
叙情溢れるロマンとSFは魅力的な組み合わせだ。一方で、誰もが魅了されるだけに陳腐さがついてまわる。だが本短篇集で味わえるのは、とってつけたようなチープなお涙ではない。透徹した論理と精密な描写によりとことん物語を詰めていき、説得性を極限まで高めた上で読者へ手渡されるラストから滲み出てくる確かな余韻、それが上田早夕里の書くロマンだ。(nemanoc)
- 作者: 似鳥鶏
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/12/10
- メディア: 文庫
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本格ファンなら、話が進んでいくうちに違和感を覚えるだろう。語り手の二人が犯人を絞っていき、ある程度見当をつけてもなお。だが真相に気づくのは困難だ。「なぜ?」「だれが?」絡み合い増殖する謎、各章の最終段に現れる挿話。真相が明らかになって初めて見えるシンプルな構図と陥穽。パラパラと解きほぐされ、掘り起こされる細やかな伏線。どこをとっても純度が高い現代本格のポリシーが貫かれ、学園という舞台へ誰もが無意識に持つ、一つの幻想的な側面をミスリードに活かした工夫の妙が印象に残る。シリーズファンなら一層「やってくれたな!」という快感が強くなり、次作への期待も高まるだろう。加えて「学園ミステリ」のヴァリエーションを広げたことで、ブームの今だからこそ「学園モノ」が持つ設定や可能性を見直す風潮が生まれるかもしれない。まだまだ「学園」に埋まっているものはあるのだ、と示してくれたのかも。
去年某新人賞作で不満を覚えた、現代のウェイン・C・ブースもいかが?(kaneo)
- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/12/08
- メディア: 単行本
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そのタイトルにあやかったか、法月綸太郎久々の長編はなんとなんと四重交換殺人。すわガジェット大好き新本格の化物ではという危惧もなくはない。もちろん期待通りのパズルチックな奇想はその骨子にあってそれも決して悪くはないのだが、それだけに留まらず話の見せ方も侮れない。まず第一の犯行についての倒叙パートでつかみ、次は法月父子が家族会議で徐々に迫っていく様子、そして厳しい捜査で犯行計画の歪みが……と捜査側と犯人側の動きが両方楽しめる対決の魅力がある。机上の推理シーンが少々冗長だが、うな重に舌鼓を打ちながらの父子の掛け合いもまた愉しく、瑕というほどでもないだろう。大胆な仕掛けを活かすスマートな演出にほっこりして、遠い次作に思いを馳せようではないか。
このレベルで十分だから、もっと読みたい……(_1026)
- 作者: 平山夢明
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: 単行本
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優れた作品を多く収録した本作の中で、曰く言い難い「気持ち悪さ」を残すのが「或るごくつぶしの死」だ。個人的には集中ベストである。どうしようもないダメ男とダメ女が、出会い利用し合い子どもが出来て逃げてというあまりにも陳腐な物語を、ダメ男の視点をなぞりつつとことんまで突き放して描いてしまう酷薄さには肝が冷える。
抜群の巧さを感じさせるのが、ラストの「或るからっぽの死」。「自分に興味がある人間以外は見ることが出来ない青年」と「自殺志願を押し付けられた少女」が織りなすボーイ・ミーツ・ガールをごく粗っぽく抑圧的に描いていく。しかし最後の一行「大丈夫なんだから。」を目にした瞬間、感情の淵が溢れかえり、嗚咽を抑え込めなくなる。シオドア・スタージョンの短編を思わせる「心震わす」物語の完成形だ。
陳腐な涙、安直な感動ばかりが物語に氾濫するこの時勢。だが、悪魔に魂を売り渡してでも読まなければならない小説がここにある。(三門)