遅ればせの更新となります。
第二回となる今回は、11月に発売された新刊16冊(国内7冊、翻訳9冊)の感想16本を押し並べます。一月遅れとなるのが残念ですが、もう少し早く出来ないものかな。括弧内はペンネーム。順序は投稿順。
平山瑞穂『3・15卒業闘争』(角川書店)
永遠に卒業できない学園で教師が殺された。その事件を契機として、主人公(中二・三十歳)は「卒業」を巡る陰謀と闘争へと次第に引きずり込まれてゆく。作中での「卒業」には本来含意されているはずの「成長」は予感されない。狂騒と暴力に支配された学舎において主人公は未熟な自意識を抱えたまま状況に巻き込まれ、そこで青春を演じようと試みる。だが、先にあるのは希望が削ぎ落とされた未来だけだ。世間に「アンチ学園もの」なる括りが存在するかどうかは知らないが、なければ本作をもって嚆矢としたい。一ジャンルを築くだけの強力な磁場がある(nemanoc)
西崎憲『ゆみに町ガイドブック』(河出書房新社)
貴重な国産
幻想小説。都市、あるいは町とは、イタリアの
カルヴィーノにとっては「不在の記憶」だった。
イングランドのミエヴィルにとっては「無数の手がかりが織り成すテキスト」だった。日本の
西崎憲にとっては「重層的に場を意味づけ」する「物語」だ。作家や雲マニアや片耳のプーさんといった語り手たちがそれぞれ異なった視野から間断なく語りを重ね、錯綜させ、時に同期させ、徐々に世界を立体的に形作っていく。そうして構築された「ありえなさ」に確かなノスタルジーが宿るのは、使われた建材が普遍的に共有されている記憶であるから。(nemanoc)
相沢沙呼『ロートケプシェン、こっちにおいで』(東京創元社)
前作『
午前零時のサンドリヨン』は序盤に中途半端な「
日常の謎」が目についたが、本作では最初から連作青春ミステリとして話を作るのに集中できており、著者は2作目にして危なげのない作風を確立したようだ。シリーズの特色であるマジックは今ひとつ絡められてはいないものの、悶絶ものの昭和ラ
ブコメの筆致はますますノっており、それが青春の問題たる事件とよく調和していて話に無理がない。大技はないが、きちんと"青春ミステリ"であるという確かなジャンル観を感じさせることと、何より丁寧な伏線処理の出来る技術には好感が持てる。(_1026)
小川一水『天冥の標Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河』(ハヤカワ文庫JA)
全10作予定の第5作目。マイナーなテーマに挑戦しているシリーズだが、今回のテーマは「農業」。地球から遠く離れた星で農業に励む男とその娘の物語とある惑星で自我が覚醒した生命体の自立の物語が交互に語られる。現代の農業の行くすえを暗示させる設定は非常に暗いものだが、貧しい環境にも負けず、何とかして新しい作物を根付かせようとするさまを細かい描写によって描き出している。また、伏線を回収しつつ新たに謎をばらまくのがこのシリーズの作品全体に言えることだが、今作もそれを忠実に守っている。次の作品が待ち遠しい。(黒木)
石崎幸二『第四の男』(講談社ノベルス)
石崎幸二は実にいつも通りである。女子高生3人組の掛け合いは常に頭が悪い。石崎は情けない。今回も執拗に登場する孤島、ビンタ、そしてDNA。しかしそれら使い回しの素材が、作者本人も気にしているような「引き出しの狭さ」に直結しないのが面白いところ。ターニングポイントになった『首鳴き鬼の島』以来全ての作品に組み込まれているDNA鑑定を始め、作品の中でどのように生かされるのかを見るのも興味深いだろう。もちろん事件の解明自体も、いつも以上に念の入った推理パートが楽しめるが、容疑をかけられた石崎への周囲の反応は抱腹絶倒間違いなし。(晶晶)
大森望責任編集『NOVA6』(河出文庫)
NOVA 6---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)
- 作者: 宮部みゆき,牧野修,北野勇作,斉藤直子,蘇部健一,樺山三英,松崎有理,高山羽根子,船戸一人,七佳弁京,大森望
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/11/05
- メディア: 文庫
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書きおろしアンソロジーの6作目。『
異形コレクション』のようにだんだんと登場するメンバーが固定されてきた感が否めないが、今回は商業デビューがこの本という作家を含めた新人作家特集回というべき内容となっている。ベテラン作家たちの作品と比べても遜色ないレベルだろう。特に、この本でデビューとなった七佳弁京「十五年の孤独」は非常にクオリティが高い。国産のSF新人賞が1つだけになった今では新たな人材を見つけることが難しいが、この作品を読むと国内SFの未来については比較的明るい見通しを持ってもいいではないかと思う。(黒木)
若島正『乱視読者のSF講義』(国書刊行会)
当代一流の翻訳者にして評論家の著者によるSF評論集。内容はSF講義、SF論考、
ジーン・ウルフ論の3つに分かれている。語り口が非常に優しく、噛み砕かれたものでSFが苦手だと思う人にも読みやすい。この本の一番の読みどころは最後の
ジーン・ウルフ論集。この作者の作品はどれも難解だと言われているが、それぞれの作品の肝をわかりやすく説明してくれる。何よりもこの評論集はすでに読んだことのある作品を再読させたくなり、まだ読んだことのない作品を読みたくさせる力を持っている。(黒木)
水見稜『マインド・イーター[完全版]』(創元SF文庫)
宇宙を徘徊するマインド・イーター(M・E)は人の精神を食らい、姿を異形のものへと変えてしまう。宇宙進出した人類にとっての天敵だ。そうした怪物が出てくるものの、本作品は、M・Eを撃退する話でも、コミュニケートして和解を果たす話でもない。これはあくまで人間そのものに焦点を当てた作品なのだ。言語や音楽や神話や認識や生命や自意識といったものをM・Eは揺らし、人の上面を一枚剥ぐ。
飛浩隆氏の優れた解説の後では蛇足であるが、M・Eはただの切欠に過ぎず、そこから人間という生物の生き方・在り方・その本質に迫るのだ。(レン)