深海通信 はてなブログ版

三門優祐のつれづれ社畜読書日記(悪化)

社畜読書日録20170608

仕事上がりに渋谷のBunkamuraで「ソール・ライター展」を観覧。
色遣いがナビ派チックであるとか、構図がドガっぽい(浮世絵っぽいと言っても可)とか、どう考えても日本人に受けないはずのない展覧会だった。モノクロも大変クール。金曜夜ということでかなり混んでいたが、平日昼にもう一度見に行く機会を作るかどうかちと悩ましい。流れで図録(というか写真集)も購入。
『All About Saul Leiter ソール・ライターのすべて』(青幻舎)\2,700

その後、東急からちょい奥に入ったところの東京オルで北欧ビールを少し。

 

佐野洋『空翔ける娼婦』(文春文庫)を読んだ。

推理作家「佐野洋」が探偵役を務める短編小説6編を収めた短編集。見事名探偵役を果たすことはまずなく、どや顔で推理を披露しても恥を搔いたり、あるいはなんだか分からないうちに警察が事件を解決したり、とカッコ悪いところを晒してしまう。それが面白いということもなく、なんとなくグダグダな作品が多いのだが、表題作だけちょっと目が覚める出来。

スチュワーデス(この言い方も時代を感じる)がフライト先で乗客と寝るらしい、という噂話の真相を突き止めるべく、ちょっとワクワクしながら合図のスープを注文してみる佐野先生が可愛い(いや気持ち悪い)。ところが、同じく合図を送っていた男が札幌のホテルで殺されてしまった、というところで探偵出馬。事件の真相は……同じ短編集の中でネタ被りというのも残念だが、もうひとひねりあってそれが結構意外。ここで多重○○○○(文字数不問)をぶっこんでくるか~と感心してしまった。それだけです。 

All about Saul Leiter  ソール・ライターのすべて

All about Saul Leiter ソール・ライターのすべて

 

社畜読書日録20170607

祖母の葬式明けで忌引き扱いだが、社畜根性を発揮し午後の打ち合わせだけ出る。「一時間で終わる」はずが二時間半になるのはもはや様式美。長引いたというより当初の目算が甘すぎるのであった。
帰りに紀伊國屋に寄って新刊確保。

ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)\886
スミス・ヘンダースン『われらの独立を記念し』(ハヤカワ・ミステリ)\2,484

 

で、ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)を読了。

事故が、犯罪が、天災が、戦争が、憎しみが、理不尽な苦しみが愛を蝕む。そんな時、人間に寄り添って生きる一頭の犬がいた。ギヴ。彼が共に歩んだ、あるいはひと時道を同じくした人々のエピソードを、ある若者が受け継ぎ、語り継いでいく。これは犬の、そしてアメリカに生きる人々の物語。

とても繊細な、それでいて感動的な物語である。家族だ愛だとクサいことばかり言うんじゃねえ、という人もいるかもしれないが、ボストン・テランがそうでなかったことがあるだろうか。いやない。出てよかった、読んでよかった作品だが、個人的にはパンク兄弟の兄貴に救いがなさ過ぎて悲しい。悔恨の涙の一滴でも流させてやればいいのに。いや、そういう人格でもないか。

その犬の歩むところ (文春文庫)

その犬の歩むところ (文春文庫)

 

社畜読書日録20170605-0606

またしばらく失踪してしまった。特に書くことがなかったとか言わない。

昨日から今日にかけて一気に古本を買ったので一応メモしておく。

佐野洋婦人科選手』(講談社文庫)\108
佐野洋空翔ける娼婦』(文春文庫)\108
佐野洋殺人書簡集』(徳間文庫)\108
笹沢左保溺れる女』(光文社文庫)\108
笹沢左保闇にもつれる』(祥伝社ノン・ポシェット)\108
dF・W・クロフツ二つの密室』(創元推理文庫・新装版)\108

エラリー・クイーンフランス白粉の秘密』(角川文庫)\108
dロバート・クレイス『ぬきさしならない依頼』(扶桑社ミステリー)\108
dロバート・クレイス『死者の河を渉る』(扶桑社ミステリー)\108
佐野洋歩き出した人形』(集英社文庫)\108
笹沢左保悪魔の部屋』(光文社文庫)\108
dデイヴィッド・ベニオフ99999』(新潮文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『硝煙に消える』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『友と別れた冬』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dジョージ・P・ペレケーノス『俺たちの日』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
ハリイ・ケメルマン『土曜日ラビは空腹だった』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108

なぜ取りつかれたように佐野洋笹沢左保を買っているのかは自分でもよく分からない。佐野洋は未読の短編集が小山になっているのでそのうち何冊か読んでみたい。クレイスとペレケーノスは布教用。男たちの友情物語なので、絶対好きな人はいると思う。『99999』も人に薦めたいので買い直した。デイヴィッド・ベニオフは『卵をめぐる祖父の戦争』だけの作家ではないのだ。『卵をめぐる祖父の戦争』もまた、ぜひとも布教したい作品である。ビブリオバトルにも強そう(それはどうでもいい)。

エラリー・クイーン国名シリーズ再読も順次。読書会までに全作はとても無理だが、可能な範囲で進めたいところ。『オランダ靴の秘密』については、穴だらけの論拠でクイーンのロジックの薄い部分を弄りまわしてみた。(http://fusetter.com/tw/tKKGp#myself)ネタばれしかないので、未読の方は注意です。
今日は『ギリシア棺の秘密』を読み終わったが、クイーン二人が物語にいかに「ケレン」を持ちこんで、なおかつ自分たちの作風を壊さないように工夫していくその過程を改めて見直すことができた。『ギリシア棺』の場合、それは「若きエラリーの推理が必ずしも当を射ない」ことを活用して物語にうねりを作ろうとする姿勢そのものを指す。詳細はまたふせったーで書くかもしれません。次は多分『シャム双子の秘密』を読むはず。なぜ順番がバラバラかというと全部の本が手元にある訳ではないから。中古で何とか揃えたいんですけどね。全く見かけないのはなぜなのだろう。

んで、昨日買った笹沢左保『闇にもつれる』(祥伝社ノン・ポシェット)を漫然と読んだ。60年代の短編5編と80年代の短編2編を単行本から再録した、特段コンセプトもない作品集だが、個々の作品のクオリティは結構高い。ところで、この本を読んでいる時、ふと西澤保彦のことを考えた。笹沢左保が西澤に影響を与えているかどうかの評論って見たことがないと思うんですが、どこかにありますかね。閑話休題、以下ミニコメ。

「貰った女」:夫との間に子供が出来ず精子提供を受けて息子を産んだ女性が、「息子の父親」に当たる提供者への妄念に憑かれていく。終盤、異様に熱狂的な雰囲気がくるりと反転して、アッと言う間もなく幕が下りてしまう。読者の「期待」を巧みに操る好編。

「寒い過去の十字架」:水商売の女が住まわせている男は数年前に強盗傷害未遂で逮捕されていた。執行猶予が消えようとする今、近所で強盗傷害事件が発生した。果たして犯人は? 人それぞれに心に「虚無」を抱えて生きていることを描く。出来は普通。

「愛する流れの中に」:愛人に殴る蹴るの暴行を受け、気を失った女。目を覚ました彼女は愛人の用心棒に連れられるまま軽井沢の別荘地へと逃避行を図る。多くを語らない男が「理由」を一言告げて去った瞬間の女の心情の描き方が上手い。何が救いかなんてそれこそ人それぞれなのだ。

「闇にもつれる」:人気のない夜道で性的な暴行を受けた女性が、突然現れた目撃者によって人生を狂わされてしまう。表題作。読んでいてまったく不愉快な話なのだが、闇の中でもつれた因果を光の下に引きずり出す手際の巧みさ、タイミングの的確さで読ませる。

「帰らざる雲」:軽井沢の別荘地で雷に打たれて感電死した男。その死の真相を知る者はただ一人。本書にも何度も登場する類の因縁話だが、特に面白いところはない。軽井沢、良く出てきますね。

「消滅」:山陰の片田舎の旅館で働く無口な芸者の運命的出会いを描く短い作品。虚無を満たしてくれる人間がこの世界のどこかにいると信じなければやって行かれない……的な話で陳腐だが、それでもなおしっかり読ませるのは細かい描写の良さだろうか。

「都会の断絶」:先日愛人に捨てられた女が、バーで出会った美しい女に抱いた嫉妬は容易く殺意へと昇華される。50年前の作品ではあるが、まったく現代でも通用するイヤ~な小噺。

闇にもつれる (ノン・ポシェット)

闇にもつれる (ノン・ポシェット)

 

社畜読書日録20170601

たまの休みでアキバに出掛ける。
食い道楽気味の弟が発見した(が、一人では入りにくい)というイタリアン「Casa di SIVATA」にランチで入店。裏通りからさらに一つ曲がったところ、急な外階段を登った先のお店で、キャパ12人くらい。我々が入った時には女性客(と、そのお供の男性客)ばかりで、確かに男一人で初めて入るのは厳しめかも。

https://tabelog.com/imgview/original?id=r5398331159642


ランチメニューは、前菜【大盛サラダとパン(熱々フォカッチャ)】+パスタ。白(オイル/鶏レバーとズッキーニ)・赤(トマト/タラとタコ)・スペシャル(その日の食材)の三種のパスタから選択可。食後のコーヒー\200も入れて\1,200(税別)。値段はそれなりだが、味は抜群。サラダはおざなりでなくしっかり食前の胃を整えてくれるし、パンも旨い(自家製焼き立てパンを15年喰ってる人間の言うこと、信じて)。パスタはシェアして両方食べたが、特にトマトベースの魚介パスタは感動的に美味しかった。これはそのうちディナーも行くべしですね。トリッパとか羊ソーセージとか食べたい。その後、アキヨド上層のビアバーで少し飲んで解散。あそこは11時から飲めるのがいいよね。

 

その後いくらかお買い物。
エラリー・クイーンオランダ靴の秘密』(角川文庫)\510
江戸川乱歩編『世界傑作短編集⑤』(創元推理文庫)\108
dコリン・デクスター『ウッドストック行最終バス』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
dコリン・デクスター『キドリントンから消えた娘』(ハヤカワ・ミステリ文庫)\108
夏樹静子『暗い玄界灘』(ケイブンシャ文庫)\108
d大阪圭吉『とむらい機関車』(創元推理文庫)\108

デクスターはふと再読したくなったが実家から掘り出すのが面倒なので(古本買いの末路)。未読の学生にでも流すか。大阪圭吉はamazonマケプレも落ち着いてきたが相変わらず版元品切れなので布教用として押さえておく。『⑤』は傑作と名高い「黄色いなめくじ」が、「シャーロック・ホームズのライヴァル」シリーズの方には収録されていないので押さえる。『暗い玄界灘に』は「自薦傑作集」とのことで。『ゴールデン12』と比較したら面白そう。

FGOのイベントをポチポチやっていたら結局終わらなかったので、今日は感想なし。エドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事④』を読み始めています。

社畜読書日録20170531

ギリギリ掲出。

昨日書いたとおり、一応来月の新刊予定を振り返る。

 

08/ボストン・テラン『その犬の歩むところ』(文春文庫)
08/スミス・ヘンダースン『われらの独立を記念し』(ハヤカワ・ミステリ)
上/E・C・R・ロラック『殺しのディナーにご招待』(論創海外ミステリ)
13/M・ヨート&H・ローゼンフェルト白骨 犯罪心理捜査官セバスチャン 上下』(創元推理文庫
17/サビーン・ダラント『嘘つきポールの夏休み』(ハーパーBOOKS)
17/リサ・オドネル『神様も知らないこと』(ハーパーBOOKS)
17/カリン・スローター『サイレント 上下』(ハーパーBOOKS)
19/イアン・モーティマー『シェイクスピア時代のイギリス生活百科』(河出書房新社
22/E・O・キロヴィッツ『鏡の迷宮』(集英社文庫
22/ジーン・ウルフ『書架の探偵』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
22/サンドローネ・ダツィエーリ『死の天使ギルティネ 上下』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
26/C・デイリー・キング『鉄路のオベリスト』(論創海外ミステリ)
30/R・D・ウィングフィールド『フロスト始末 上下』(創元推理文庫
30/ジム・ケリー凍った夏』(創元推理文庫

 

個人的要注目作品が集中した月。
□テランはクライム・ストーリーとは一味違うようだが出るなら必ず買わなければならない(そして次の本の翻訳に弾みをつけたい)作家。前作『暴力の教義』が話題にならなかったのはいまいち納得が行っていないが、文春と新潮の宣伝の差だと思う。
□「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズは第三作。第一作でキャラクターを作り込み、第二作でそれをしっかり発展させたので、第三作の転がし方には大いに期待。
□『嘘つきポールの夏休み』は、お気楽人生を送る口から出まかせ男が、ふとしたことから地獄に向かって一直線に転がり落ちるサスペンス小説。こんなのつまらない訳ないんだよな。ハーパー・コリンズはヴィレッジブックスと同じくらいの頻度でいいので安打を打ち続けてほしい。
□『シェイクスピア時代の~』は、小説も書いている歴史学者の、イギリスではベストセラーになった一般書。でも諸兄、原題が The Time Traveler's Guide to Elizabethan England (『エリザベス朝イングランド 時間旅行手引き』)という時点で読みたくなりませんか?
□C・デイリー・キングは、カッパノベルズ版を持っているし読んだので買う気力が薄い(どうせ増えるのは注釈だけだし)が、一応載せておきます。併録の短編は、面白いんですかね。
□それより何より、ジム・ケリーが最重要。前作『逆さの骨』で大ホームランをかましながらもまたも三年待たされてしまったが、そのクオリティの高さは既にお墨付き。この夏のマストリードですね。

 

会社帰りに寄ったブックオフで、あるのは分かっていた本を確保。

アーネスト・ブラマ『マックス・カラドスの事件簿』(創元推理文庫)\108

 

今日読んだ本は、エラリー・クイーン『中途の家』(角川文庫)
弘前読書会課題図書。17日の読書会までに、あと何冊初期クイーンを読めるか。以下、省力気味のミニコメント。
・「読者への挑戦状」を設定する時に、最もやりやすいのが「消去法」。「犯人を指し示す直接的な証拠を指摘させる」よりも「犯人を絞り込むための条件を揃えさせる」方が、読者としても納得しやすい。(逆に言えば、「マッチの謎」「被害者の素姓の謎」など、本作に登場する一つひとつの謎においては、厳密性を期するために論理が複雑化しているが、辿りつくべき解答そのものはシンプルになる)
・「消去法」であるがために犯人を屈服させる方法が自白しかない、というツメの不徹底(集めた証拠において論理的に正しく見える限りは犯人、というゲーム性の中でのみの勝利)。
・女性、恋愛の書き方の拙劣さは、一向に改善されない(じゃあ男性は上手いのかというと……)。

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

 

社畜読書日録20170530

飽きずに紀伊國屋書店に通う私。
「ぼくのかんがえたさいきょうのミステリ作家(仮)フェア」を実見した。まっ、いいんじゃねぇの?別にどうでもいいんだが、こういうフェアで選書する時にいわゆる本格ミステリがほとんどで、また翻訳ミステリがさっぱり入らない辺りに何らかの限界を感じる。あと、フェアの内容をまとめたペーパー的なものが見当たらなかったのが残念。

もう今月買うものはない、と言いつつ見落としていた本を買う。

スキップ・ホランズワース『ミッドナイト・アサシン』(二見書房)\2,700

1885年のオースティンで殺人を繰り返したアメリカ史上初の連続殺人鬼についてのノンフィクション。殺人そのものだけでなく、それが触媒となって起こった狂乱についても書いているらしく興味深い。ニューヨークタイムスの書評(https://goo.gl/Rtz0XY)で触れられている、エリック・ラーソン悪魔と博覧会』(文藝春秋)も読んでみたくなる。

 

さて、今日読んだ本。G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち』創元推理文庫)。新訳で一応新刊扱い。昨日がチェスタトンの誕生日ということで、積んでいた本をなんとなく読み始めた。
チェスタトンは正直あまり読めていない。ブラウン神父物は一通り読んでいるはずだが、『ポンド氏の逆説』『奇商クラブ』『四人の申し分なき重罪人』『新ナポレオン奇譚』など、未読だらけ(論創の本はすべて読んでいるというねじれもあり)。本作も今回が初読。
「平凡人」の目線から見れば狂い捻じれた思考、目にも止まらぬ瑣事が、あえて“逆立ち”できる「詩人」の言葉によって解かれる。その最も分かりやすい(決して分かりやすくはない)例が「鱶の影」。「足跡のない殺人」へのアプローチとして、まるで意想外のところから入って異形の論理を抜けて意外にエレガントな出口に転がり出る面白さは追随を許さない。
また、「ガブリエル・ゲイルの犯罪」は、人がどのようにして「平凡人」からはみ出して「狂人」となるかを、「観念の犯罪」の理解者ガブリエル・ゲイルの思考に寄り添う形で描く雄編。作品集のベスト1と言って間違いないでしょう。傑作。 

詩人と狂人たち (創元推理文庫)

詩人と狂人たち (創元推理文庫)

 

社畜読書日録20170529

早速ネタ切れの感あり。この手の日記は、毎日書く気力もさることながら書くネタを探す努力・日常をエンタメにしていく精神なくしては続かぬことを痛感する。

 

来月の新刊ネタは31日に回すとして、さて今日のこと。日頃なく真面目に働いたので、かつやの期間限定の青ネギ山椒カツ丼が美味しかった(ただし味が濃い)くらいしか記憶がない……なんだこれは、たまげたなぁ。
帰りがけに新宿紀伊國屋書店本店を覗く。と言って、先日行ったばかりで買う本がある訳もないので即退出。「ぼくのかんがえたさいきょうのミステリ作家(仮)フェア」という頭の悪い(誉め言葉)名前のフェアを見たかったのだが、見つからず(後で一階でやっていることが判明)。ついでに『バイオーグ・トリニティ』を求めてコミック棟を彷徨うも在庫見当たらず。すぐ横のアニメイトで結局買う。ミス連で大学生に薦められて今更読み始めたが、大変素晴らしい作品で舞城ミステリやってますという感じ。詳しいレビューはまた別途。さらに隣のブックオフで「安く買ってすまない」顔で新刊落ちを買う。

アンソニーホロヴィッツ007 逆襲のトリガー』(KADOKAWA)\1410
オーガスト・ダーレスソーラー・ポンズの事件簿』(創元推理文庫)\108

ホロヴィッツシャーロック・ホームズものの『絹の家』『モリアーティ』で「原作愛+現代の読者も引っ張り回すセンス」を見せつけてきた作家なので、きっと楽しめることでしょう。ただし、当方「007」には興味なし。ディーヴァーの『白紙委任』も結局読まなかったんだよね。
シャーロック・ホームズのライヴァル」は未所持が多いので、これを機に集め始めてみようか(均一棚縛り)。

 

さて読書感想。今日は、ジャック・ヴァンススペース・オペラ
どう考えても「宇宙(スペース)で、歌劇(オペラ)だ!」というダジャレから生み出された連作短編集(に限りなく近い長編)。
宇宙探偵マグナス・リドルフ』しかり、『天界の眼』しかり、「ジャック・ヴァンス・トレジャリー」に収録された作品群は「ペテン師まかり通る」小説ばかりだが、本書も実質そのジャンルと言える。惑星ルナールから「第九歌劇団」を連れてきた(が、その行方を見失ってしまった)アドルフ・ゴンダー、あるいは当初は「音楽で異星人と情緒を共有することなど不可能」「『第九歌劇団』はフェイク」と言っていたにも関わらず、金が絡むや即デイム・イザベルの顧問に収まったバーナード・ビッケルなど、調子がいいにもほどがある彼らはまさにヴァンス・ワールドの(ちょっと間抜けな)ペテン師たちである。一見アドバンテージを握っている彼らが、結局(志だけは高い)デイム・イザベルに引きずり回されてしまうのは滑稽だ。なおかつ、その甥のロジャー・ウールや歌劇団のメンバーたちが巻き込まれるドタバタ騒ぎ、異星人たちの独特かつ作りこまれた描写は高レベルであり、同時に簡単に枠に収まらない独自性を保っており、これぞヴァンスだ、という所感。密航者である魅惑の美女マドック・ロズウィンを巡る全宇宙規模の謎も魅力的。選集の掉尾を飾るにふさわしい良作といえるだろう。大変おすすめ。
同時収録の中短編4編はいずれも面白いが、個人的には「海への贈り物」が白眉。異星に作られた、貴金属を収集する基地から乗組員が失踪するホラーから、異星知性体とのコミュニケーションを目指すSF、そして真実を暴き悪党へと迫るミステリ(しかも最後はちょっと泣ける)と、多様なエンタメ要素を惜しみなく注ぎ込んだ秀作だった。 

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

スペース・オペラ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

 

社畜読書日録20170528

何が悲しうて労働日である。しかも朝が早い。その分帰りも早いので、久々に(といっても先週の土曜日以来だから最近だ)西荻窪盛林堂書房へ。大して買わない客で申し訳ないが、店長さんとやるかもやらないかもしれない同人誌の企画で盛り上がる。

・俺的〇〇年代ミステリ傑作選(30年代とか選びようがないですって~)
・架空〇〇年代ミステリ傑作選(植草甚一なら、瀬戸川猛資ならこう選ぶかも~のような遊び)
・論創海外ミステリ読書ガイド(200冊記念とかで誰かがやったら買うが、誰がやるんだ誰が……)

他、論創の近刊である『鉄路のオべリスト』/『鮎川哲也探偵小説選』の話(日下さんの解説を読みたい/鮎哲訳の海外短編セレクト法/鮎川哲也旧蔵書の行方……)など。相変わらず行くとためになるお店である。結局買ったのは以下二冊。

ジャック・フットレル思考機械の事件簿Ⅰ』(創元推理文庫)\100
ジェイムズ・E・ケイランス『ジョン・ディクスン・カーの毒殺百録』(本の風景社)\4,000

カー私家版評論本はS・T・ヨシの『ジョン・ディクスン・カーの世界』や、『ジョン・ディクスン・カー ラジオドラマ集』など、結局全部盛林堂書房で買うことになった。ラジオ・ドラマ集はCDの方、ヨシ本は部数限定のおまけつきと、日本に数十点くらいしかない方を買えているので、大変良いお買い物でした。ただし値段も相応(盛林堂書房は大変良心的だが)。

家に着いたらamazonで買った洋書が二冊到着。当初の予定よりも10日近く早く届く。うーむ、こうなるとますます洋書を買うハードルが下がるな。

George Bellairs The Dead Shall Be Raised / The Murder of a Quack \1323
J. Jefferson Farjeon The Mystery in White \1340

今回買ったのは長編翻訳企画用だが、電子書籍では分からぬ分厚さにめげかける。ブレアズはどちらかだけになるかも。

 

今日の読書感想は、アガサ・クリスティー『スタイルズ荘の怪事件』(アガサ・クリスティー文庫)です。古典づいている。
真実を突き止めるまでは多くを語らないポアロが何気なくこぼした内容が、ヘイスティングズ(≒読者)の思考を惑わせ、操るようにも読めるのが面白い。犯人側の策略と他の人物たちの思惑と、そしてポアロがそれに輪をかけて巡らす謀略とが噛み合って、意外な真相へと至る。大変お手本的な作品だと思う。さておき、登場人物たちの階級意識とかまで踏まえて読むとさらに面白いという話なのだが、難しいですね。読書会までには原文にも目を通しておかないと。 

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

社畜読書日録20170527

ツイッターだと残らない日録的なものを書いてみようかと思った。今回は果たして何日続くか。

折角の休みだが、出かける気力がまるでないのは人として終わっている。どうせ明日は朝早くから出勤だし、飲みに行くのも億劫だ。そういうことでその辺にある読みかけ本を片端から読んでみる。『ローマ帽子の秘密』(読書会用)、『スタイルズ荘の怪事件』(読書会用)と、結局読書会用の本しか読んではいないのだが。クイーンについては、弘前読書会のために『中途の家』を読むことになっているので、それまでに国名シリーズを全作読み返そうかな、とふと思った。それにしても、なぜ角川は電子版を取り下げてしまったんだろう。
冷蔵庫に何もないので晩御飯の買い物に行くついでにポストを見たら献本あり。

dジャック・ヴァンススペース・オペラ』(国書刊行会)(←白石朗様、ありがとうございます!)

d、つまりダブりだ。昨日会社帰りに買ったの……落ち込んでも仕方がないので、そのうち若い衆に布教する。本当に布教したい「魔王子シリーズ」はあまりにも見ないのが残念。

 

読書感想がメインコンテンツのはずなので、エラリー・クイーン『ローマ帽子の秘密』(角川文庫)をば。
新訳国名シリーズ第一作。クイーンは好きな作家だが、多くの作品が中学生の時に読んで、それ以来一度も再読していない。このローマも未再読組の一冊。「初期クイーンは面白くない」という話がツイッターで回ってきたが、果たして本当にそうだったか自信がなく、口を挿めなかったというのが今回の再読の発端。
で、実際に読んでみると、いくつか気づきがあった。
まず捜査を描く際のテンポの良さ。ローマ劇場で毒殺死体が転がる発端から、「警察到着、クイーン警視到着、エラリー到着、現場調査、関係者尋問……」と流れるように捜査が進行する。途中、帽子についての議論などを挿むなど、単調にならないようにポイントを押さえたストーリーは、優れた訳文も相まってすらすら読める。「情報を①集めて②整理して③評価して、次の捜査へ進む」流れができているので読みやすい。クイーン警視の捜査とエラリーの論理が両輪となり、「劇場内から帽子を持ち出すことができる人間は論理的に考えて一人しかおらず、その人が犯人であるのは間違いない」という結論に持ち込むのも好手。「読者への挑戦」に堪えうるものを用意したという気概もよし。
退屈することはないが……それでもなお面白くはない(十分面白い、という読者がいるのは分かるが)。
色々理由はつけられるが、エラリーが覚えていた以上に画面から不在であるとか、論理的には正しいが「被恐喝者」という以上には真犯人に描写がなく、逆に意外性が損なわれているとか、特殊な毒を使う犯人側のメリットが皆無(作品の要請上特殊なものでないと困るのだが)とか、まあよしなしごとにしかならんのでやめます。  

ジョー・ネスボ『悪魔の星』

読書会の課題書を読みつつ、カーター・ディクスン『かくして殺人へ』(再読)や、ダフネ・デュ・モーリア『人形』を読んだのですが、いまいちピンとこなかったので、レビューを書くのは後回しになっています。

さて、たまには数日前に出たばかりの本をほやほやのうちにレビューしたいと思います。ジョー・ネスボ『悪魔の星』は、ハリー・ホーレ警部シリーズの第5作にして、作中シリーズ「オスロ三部作」(コマドリの賭け』『ネメシス 復讐の女神』、本作)の完結編に当たる作品です。

悪魔の星 上 (集英社文庫 ネ 1-8)

悪魔の星 上 (集英社文庫 ネ 1-8)

 
悪魔の星 下 (集英社文庫 ネ 1-9)

悪魔の星 下 (集英社文庫 ネ 1-9)

 

 

本シリーズの主人公であるハリー・ホーレは、他の刑事たちを遥かに凌駕する現場捜査の経験値、優れた記憶力、そしてそれらを有機的に結び付ける論理的思考力と、様々な資質を備えたスーパー刑事です。しかし、酒のトラブルを起こしては懲戒免職寸前まで追い詰められたこともしばしば……という負の経歴も持っています。

今回彼を酒へと追いやるのは、3年前の事件で起こった同僚の刑事の死の真相をどうしても証明することができない、というジレンマです(詳細は『コマドリの賭け』(ランダムハウス講談社文庫)を参照のこと)。ネスボは何とも大胆なことに、「被害者の視点」から「何がなぜ起こったか」を既に読者に見せてくれているのですが、これにより「真実を知りたい、無念を晴らしたい」というハリーの苦しみが、さらに深い立場から理解できるようになっている、と言うのは構成の妙ですね。

前作『ネメシス 復讐の女神』で、「物語の裏側に潜む真の悪」の正体と事件の真相を知るも上司に跳ね付けられたハリーが酒に迷い、ついに警察からの退職を覚悟し、それでもなお立ち上がって繰り広げる駆け引きと同時に描かれるのが、一人暮らしの女性を狙った、と思われる猟奇殺人事件の犯人を追う捜査です。オスロ市史上でも珍しいこの種の殺人事件の真相を追う猟犬となったハリーは、同僚や部下とともに犯人のメッセージを読み解いていきます。果たして犯人の目的とは、そして意味深なタイトル「悪魔の星」とは一体何を意味するのか。

短く章を区切り、速いテンポで物語を進めつつも、随所に意外な展開をどんどん盛り込んでいく本作は、北欧ミステリ界の現役作家でも随一とされるネスボのストリーテリングの才が存分に発揮された、凝りに凝ったプロットが楽しむことが出来ます。ハリー・ホーレの「あまりにも察しが良すぎる」天分ゆえに、やや展開を急いだかに見える箇所もありますが、正直気にするほどではありません。エンターテインメントとしては十分に及第点を取れる、「巻措くあたわざる」秀作です。

唯一残念なのは、「オスロ三部作」の出発点である『コマドリの賭け』が、版元廃業により入手困難(amazonマーケットプレイスなどで高額で取引されています)であるという点に尽きます。基本的な点は『ネメシス』『悪魔の星』を読めば十分に理解できますが、「真の悪」の堂に入った悪党ぶりを存分に楽しみたい向きにはぜひ読んでいただきたいところです。同版元の刊行物としては、ルースルンド&ヘルストレム『制裁』が早川書房より復刊される運びになっていますが、ぜひこの流れで『コマドリの賭け』も復刊されてほしい(できれば集英社文庫で)ですがいかがなものか(三門優祐)。

 

評価:★★★★☆ 

 

コマドリの賭け 上 (ランダムハウス講談社文庫)

コマドリの賭け 上 (ランダムハウス講談社文庫)

 
ネメシス (上) 復讐の女神 (集英社文庫)

ネメシス (上) 復讐の女神 (集英社文庫)

 
コマドリの賭け 下 (ランダムハウス講談社文庫)

コマドリの賭け 下 (ランダムハウス講談社文庫)

 
ネメシス (下) 復讐の女神 (集英社文庫)

ネメシス (下) 復讐の女神 (集英社文庫)